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―共通試験前日―
家族と食事をしていると、父がおかしなことを言った。
「和、最近は落ち着いて受験勉強できてるようだな。全国模試も上位だった。この調子なら、明日も大丈夫だな。まだ高校生なんだから、男女交際はまだ早い。これで和も落ち着いて勉強に集中できるだろう」
「だ、男女交際って……?」
学一がトンカツを口に頬張り、意味深に笑みを浮かべた。
「学ちゃん、お行儀悪いよ。口に詰め込んでヘラヘラしないで」
「ヘラヘラしてないし。お姉ちゃん、最近誰からもメールや電話かかってこないね」
「それがどうかした?」
「着信音がベートーヴェン作曲の第五交響曲ハ短調『運命』だったから、煩くて仕方がなかったけど、最近静かで勉強に集中できるんだ」
「……っ、そんなことチェックしてたの?」
「お父さんもお母さんも、お姉ちゃんのことを心配してるんだよ。お兄さんには美人の彼女がいるのに、お姉ちゃんが騙されてるって」
「わ、私が騙されてる? 学ちゃん、変なこと言わないで。あの日、わざと私にメールしたのね? そうなんでしょう?」
思わず大声を発した私を父が窘めた。
「和、食事中だよ。男子のことくらいで騒ぐな」
「私は別に……。学ちゃんが……」
「学一に否はない。お父さんが彼に『和をこれ以上惑わせないで欲しい。和は今が一番大事な時なんだ。心を乱さないで欲しい』と、そう言ったんだ。彼はとても美しいお嬢さんと一緒だったからね。お父さんの前で堂々と手を繋ぐほどの仲なんだ。彼は交際を否定しなかったよ」
聖也が……。
北条さんと手を……。
「お父さん、もういいじゃありませんか。和も吹っ切れたようですし。クリスマスイブの夜に突然連れてきた時は、正直驚きましたが、和のお友達の一人に過ぎません。ねえ、和」
「……はい」
聖也が北条さんと手を繋いでいたことを知り、私はショックを隠せない。
両親は明日の共通試験について、話題を戻したけど、私はその内容が耳に入ってこなかった。
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