19

「カラオケって、男子と三人じゃなかったんだね」


「俺も知らなかったんだよ。うさぴょんに行ったらC組の子がいて、北条もたまたまそこに……」


「そう。高嶺の花の美しいうさぎさんがいたんだ。聖也は『学園のアイドル』とか『学園の王子様』とか、女子にもて囃されてるから。女友達がたくさんいても不思議はないわ。私と無理して友達にならなくてもいいよ。一人には慣れてるし、あの日のことは全部忘れたから」


 あの日のことって……。

 俺が和にキスをして傷付けたことか……。


「和、怒ってるのか? もしかして北条にヤキモチ妬いてるのか?」


「ヤキモチなんて、妬くわけないでしょう。私達は友達なんだから。聖也が北条さんと付き合っても、私には関係ない」


「……そうだよな。和と俺は友達。和の恋人は勉強だからな」


 気まずい雰囲気のまま、第一校舎の裏庭への通路が近付く。俺は和の手を掴んで、裏庭に連れていく。


「やだ」


「俺はあの日のことは忘れない。自分がしたことは反省してるけど、和にキスしたことを忘れるなんてできないよ」


 後退りする和を、俺は校舎の端に追い詰めた。両手で和を挟み込み、校舎の壁に手をついた。


「もう、俺から逃げれないよ」


「……離して」


 和が俺の胸を両手で押す。

 そんなに嫌がらないでくれよ。


 無理矢理キスなんてしないから。


「……もう嫌だ」


 和は目に涙を浮かべた。


「どうして泣くんだよ? 俺のことが嫌いなのか?」


「……こんなことをする聖也は嫌い」


「き……らい?」


「そうだよ、大嫌い。私、一人になりたいの」


 ――この俺が大嫌い?


 ショックのあまり、俺は和を挟み込んでいた手をダラリと下ろす。


 一人になりたいって、『ぼっち』の方が俺といるよりいいってことだよな?


 俺……。

 女子に『大嫌い』なんて言われたの、初めてだよ。


 その一言で、こんなに傷付くとは自分でも思わなかった。

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