13
―翌朝―
「おはようございます」
可愛い声に、俺は振り返る。
「はっ? えっ?」
俺の視界に入ったのは、黒縁眼鏡をかけて、前髪を黒いピンで止め、おでこを丸出しにした、超ダサい林の姿だった。
「ぷはっ、まじで? 林、何でだよ。あんなに可愛かったのに、元に戻したのか?」
「毎朝コンタクトするのは面倒だし、装着する時間があったら少しでも勉強したいし。短い前髪も勉強の邪魔だから」
「……なるほど。合理的だな」
シンデレラの魔法はあっという間にとけ、林和は本来の姿に戻ったらしい。
あのチャーミングな林は、俺を欺き告白させるための仮の姿に過ぎなかったようだ。
ただひとつ元に戻らなかったことがある。それは『ぼっち』だった林が、自ら俺に話しかけてくれたこと。これは脈があるかも。
「外見で人の価値は決まりません」
「いや……多少は外見も必要だよな? 俺と付き合うなら」
「私が光月君と付き合う? 光月君、何か誤解しているみたいだけど、私達付き合ってませんよね?」
「何でだよ? 昨日、俺は真剣に告白した。林は俺の気持ちを受け入れてくれたんじゃないのか?」
「光月君の気持ち? 何のことですか?」
俺は林の黒縁眼鏡を両手で外す。
「林は眼鏡を外した方が絶対に可愛い。お願い、コンタクトにして」
林の頬が林檎みたいにポッと赤く染まる。俺は林の手を掴み廊下に出た。
「光月君、どこに行くの? 何も見えないよ」
俺は非常階段の踊り場まで、林を連れて行った。
「光月君……」
「
「わ、わ、わ、そんなこと恥ずかしくて言えません。それに、私達は……」
「付き合ってくれないなら、友達でもいい。友達になってくれないなら、ここでキスするよ」
林は顔の前で両手をクロスさせて、バツを作った。
「光月君はすぐにキスをしたがる傾向がありますが、それは全面的に禁止します」
「マジで?」
「……友達は軽々しくキスはしません」
俺は林を壁に追い詰める。唇が触れる寸前、始業のチャイムが頭上から響いた。
「聖也って呼んでくれたら、何もしない」
「せ、せ、聖也、チャイムが鳴りました」
真っ赤に頬を染めながらも、素直に名前を呼んでくれた林に口元が緩む。
「クスッ、和、教室に戻ろう」
俺は林の手を掴み非常階段を駆け上がる。俺を見上げて微笑んだ林の笑顔がサンサンと輝く太陽よりも眩しかった。
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