【4】地味子に完全防御されました

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「なぁ〜和、キスしよ!」


 和の机に頬杖をつき、和の顔を覗き込む。


「教室だよ。それに私は勉強してるの。ジョーダンは顔だけにして。私の邪魔をしないで」


 ジョーダンは顔だけって何だよ。

 俺は超イケてるつーの。


 それなのに和は休憩時間もずっと問題集に視線を落としたまま、俺に見向きもしない。


「和! 俺と勉強とどっちが大事なんだよ」


「光月君は私の友達、比較するなんてナンセンス。勿論、勉強に決まってるでしょ。明日から期末テストなのよ。聖也、わかってる? 全然勉強しないなんて、考えられない」


 和はモーレツな勢いで捲くし立てる。

 『友達』認定されるまでは、銅像みたいに参考書を片手に、一言も話さなかったのに驚きだ。


 ポッと頬を染めた愛らしい和はもう消えちまったのか? 俺より勉強が大事だなんて、ツンデレか?


「わ、わかってるよ。期末テストだろ」


 俺は和の勢いに押されてタジタジだ。

 母親に『勉強しろ』と言われたら、反抗するのに、和には反抗できない。


 なぜなら、例の一件で和に頭が上がらないからだ。


「定期テストの学年順位は廊下に貼り出されるんだよ。聖也も勉強しないと。聖也は学年でワーストテンなんだから」


「ワーストテン……」


「そうだよ。中間テストの順位は、後ろから十番目だったよね?」


「……っ、どうしてそれを知ってんの?」


「私、記憶力はいいから、一度順位を見たら忘れないのよ」


「俺の順位も見たのか!?」


 和は俺の言葉をスルーして平然と数学の問題を解いている。


「赤点を取って追試になりたくなかったら、休憩時間も勉強してね」


「ぐぐぐっ……」


 和は俺の痛いところをつく。

 容姿には自信はあるが、成績はいまいち。いつも赤点スレスレだ。


 俺は光月聖也こうづきせいやだぞ。

 学園のアイドルでもあり、学園の王子様なんだから。


 自他共に認める美男子だが、天は二物を与えなかった。顔やルックスはイケてるが勉強は大の苦手。和とは正反対の性格。


 そんな俺達が今年の六月、悪友との賭けがきっかけで『友達』になった。


 ――あれから六ヶ月。


 俺は和を『彼女』認定しているが、和はいまだに俺を『友達』認定のままだ。


 俺は女子に超モテモテのイケメンなのに、どうして『彼氏』認定してくれないんだよ。


 彼女になれば、もれなく恋人繋ぎや壁ドンや顎クイや、甘~いキッスという『溺愛特典』がついているのに。


 まさかの完全防御だ。

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