12

「ちぇっ、マジかよ。しょうがねぇな。聖也! マジ告白なんかしやがって、お前が先に落ちてどーすんだよ」


「……まったくよぉーー! 洒落になんねーーな」


 校舎の陰にいたのは、正和と恭介!?


「な、なんだよこれ……?」


「お前が先にズドンと恋に落ちるなんて、俺達が林に焼き肉を奢るはめになっただろ。はぁーー……ついてねぇな。散々だよ」


「な、なんの話だよ!」


 俺は林に視線を向けた。

 林は俺を見つめている。


「焼き肉って……まさか?」


「光月君。私ね、元木君と平本君から電話をもらって、二人と賭けをしたの。三日以内に光月君に本気で告白させることが出来るかどうか……。三日ではとても無理だと思ったけど、光月君は告白してくれたね」


「……か、か、賭け!?」


 俺は正和と恭介に視線を向ける。


「俺達なりの謝罪だ。林の怒りをおさめるためには『目には目を歯には歯を』、聖也をギャフンと言わせるしかないって、この話は俺達から持ちかけた。林はこんなゲームには参戦しないと思ってたけど、イメチェンまでしてくれて、ナイス演技だったよ。なあ恭介」


「はっ? お、お前ら! 俺を裏切ったな。ふざけんな」


 俺はブンブンと右手の拳を振り回す。


「俺の真剣な告白で賭けをするなんて、二人ともぶん殴ってやる」


「うぉ~! は、は、林、お前の勝ちだから! 聖也が林に焼肉を奢れよな! 恭介逃げろーー!」


 正和と恭介が猛スピードで逃げ出した。二人を追いかけようとしたら、林が俺の腕を掴んだ。


「……本当はね、こんなことしたくなかった。人の気持ちを賭けて騙すなんて、サイテーだよね。光月君、ごめんなさい」


「林……」


 ――立場逆転……。


 サイテーなのは俺の方だ。


 俺が先に林を傷つけたのに、林は申し訳なさそうに深々と頭を下げた。その潔い姿に自分の愚かさを恥じた。


 真面目で堅物のイメージしかなかった林に、こんなことをさせるなんて、元はと言えば全部俺の撒いた種。


「……俺こそ、ごめん」


「……私こそ、ごめんなさい。光月君が謝ってくれたし、焼肉の食べ放題は結構です」


「……いや、それは」


「もともと賭けで勝ってもご馳走になるつもりもなかったし、ただ光月君に謝って欲しかっただけだから。遠慮します」


 完敗だ……。

 人として、俺は劣っている。


「本当に申し訳ありませんでした」


 俺は誠心誠意謝罪したが、林から交際の返事はもらえなかった。


 自業自得だ。

 穴があったら入りたい。

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