【3】地味子と立場が逆転しました

10

 ―第一校舎の裏庭―


 俺と林がキスした場所。

 あの日と同じように、裏庭は校舎の陰になり、微かに陽が差しているだけ。


「やめて下さい。痛いから放して」


 林の声に、強く掴んでいた手を放す。


「……ごめん」


 風が林の短くなった髪を掬って揺らした。


「話って、何ですか?」


 林が大きな瞳を俺を向けた。長い睫毛を数回瞬きさせ、視線を逸らすことなく俺を見つめている。


 俺の鼓動が明らかに変だ。

 ドキドキと高速回転している。


 真っ直ぐ向けられた視線に耐えられなくなり、俺から思わず視線を逸らした。


「光月君、話があるなら早くして下さい」


 俺は何故か緊張している。


 とにかく、謝らないと。

 意を決して、俺は林に視線を戻した。


「林、この間はごめん。初めは恭介や正和とその……賭けをしてた。だけど、俺……あれから林のことがずっと気になってて。翌日から学校を休んだし。俺のせいかなって……」


「欠席したのは風邪を引いて熱があったからです」


「風邪? 嘘!? 本当に風邪? ショックで休んだんじゃないの?」


 林は首を傾げ上目遣いで俺を見上げた。


「ショック? 何のことですか?」


「はっ? 何だよ……。風邪かよ。ていうか……、秋山と付き合ってるのか?」


「付き合ってるよ」


「えええっ!?」


 俺のハートがパリンッて音をたて粉砕した。


「……って、言ったらどうするの?」


 あの大人しい林のやけに生意気な口調が、俺には小悪魔に見えた。


「秋山とは別れろ」


「……どうしてですか?」


 俺はガラにもなく向きになっている。頭の中は嫉妬に狂い、グツグツと沸騰したヤカンの湯みたいだ。

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