この俺に、ドンって……ドンって……。

 壁ドンならわかるけど、胸を突き飛ばすなんて。


「あ~らら、あらら。聖也? まさかの撃沈!?」


 正和と恭介が肩を組み、ニヤニヤしながら俺を冷やかす。


「イケメンのお前を相手にしない女子もいるんだな」


「うっせぇ、今のは軽いウォーミングアップだ。今から本気出すんだよ」


「どうだかな~」


 何でだよ。

 林の冷たい言葉と態度に、今まで味わったことのない屈辱感が心に渦巻く。


 心の中で暴風に曝された白旗が、パタパタと揺れた。


 ―翌日―


 朝っぱらから男子に囲まれている林。それでも素知らぬ顔で林は参考書を広げて勉強をしている。


 可愛い女子を眺めているだけで、無意識のうちに溜息が漏れる。


 午後の授業が終わり、俺は一目散に林の傍に走り寄る。


「なぁ林。話があるんだけど。ちょっといい?」


 俺の誘いを断る女子なんて、この世に存在しない。この笑顔に女子はみんなイチコロなんだ。


「光月君、しつこいよ。話すことは何もないから」


「……へっ?」


 林の言葉に俺は耳を疑う。


「勉強の邪魔しないで。あっちに行ってくれる」


 しつこい?

 邪魔?

 あっちに行け!?


 この俺に、あっちに行けだって!?


 俺の中でドカンッと怒りが爆発した。平然としている林に、イライラしながら視線を向けた。


「あのさ」


「光月君、私、勉強してるのよ。見てわからないの?」


「林、ちょっとこっちに来い!」


 俺は林の腕を掴む。


「痛い……。何するのよ……」


 椅子に座っていた林を、グイッと引き上げた。


 俺は林の腕を掴んだまま教室を出てズンズン歩いた。林は抵抗しながらも、俺の後を嫌々ついてきた。

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