六限目の授業がやっと終わり、俺は猛スピードで教科書を鞄に押し込むと、林の机の前に立つ。


 林は俺をチラッと見上げた。

 大きな瞳にクルンと上を向いた長い睫毛。


 林って……こんなに可愛いかったっけ?


 思わずドキンと鼓動が跳ねる。


「光月君、私に何か用ですか?」


 林は学生鞄に教科書を収めながら、淡々と話しかけた。外見は変わったが、口調は以前と同じだ。


「一緒に……帰らない? 大事な話があるんだ」


 周囲にいた女子が、「きゃあ」って悲鳴を上げた。その声に、俺は余裕の笑みを浮かべた。


 この俺が誘ってるんだ。

 断るはずはない。


「ごめんなさい」


 林は俺に視線も合わせず、教科書や参考書を鞄に収めた。


「この間のことは反省してる。この通り謝るから……」


 俺はクラスメイトの前で、林に頭を下げた。林が大きな瞳で俺を見据えた。


 この俺が頭を下げているんだ。きっと許してくれるよな?


「一体何のこと? 今から秋本君と会う約束をしてるの。彼が生徒会室で待ってるから」


「秋本? A組の? 七三分けの髪型をしていて、ダサい銀縁メガネの生徒会長か?」


 俺の言葉に林がキッと睨んだ。


「人は外見じゃないわ。秋本君の人間性は、光月君よりもよっぽど優れてる。光月君、そこ退いてくれる? 私、急いでるから。邪魔しないで」


 ――ドンッ!


 林が左手で俺の胸を突き飛ばした。不意討ちをくらい、俺の体はぐらつく。


 クラスメイトは遠巻きに俺達を傍観ながら、「おぉ~」って声を上げた。

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