ずっと蝸牛かたつむりみたいに、固い殻に隠っていた私。光月君の弾けるような笑顔で、固い殻がパリンと壊れた気がした。


 入学式で初めて見た時から、光月君は憧れの存在だった。


 なぜなら、私とはまるっきり異なっていたからだ。


 高身長でカッコ良くて、まるで童話に登場する王子様みたいに端整な顔立ちをしていて、光月君の周りには、いつも男子や女子が集まっていて、雲の上で太陽がサンサンと光を放っているみたいだった。


 夜空に浮かぶ月が太陽に憧れるように、私は教室の片隅で参考書に隠れるように、光月君のことを時々見ていた。


 異性としてというより、誰にでも優しくて明るい性格に、人として憧れていたからだ。


 そんな光月君に電車で声をかけられ、翌朝も偶然駅で逢って、学校まで一緒に登校した。


 私は夢を見ているのかな?

 明るい太陽が暗闇の月に微笑むなんて、現実ではあり得ないよ。


 ――そして、その日の帰り道……。


 『ずっと好きだった』って、光月君に告白されて、私の頭は真っ白になった。


 嘘でしょう?

 女子生徒の誰もが憧れる光月君が、地味でダサい私のことを……!?


 ほ、ほ、本当ですか……?


 ――翌日、私は光月君に第一校舎の裏庭に呼び出された。


 一瞬、行くべきか、行かざるべきか、迷ったんだよ。


 でも、ひとりぼっちの私に話しかけてくれた光月君と友達になりたくて、私は指定された場所に向かった。


 裏庭に行くと、光月君は私より先に来て待っていた。誰もいない裏庭は校舎の影になり少し薄暗い。


 でも、校舎の隙間から太陽が少しだけ顔を覗かせ、光月君の顔を照らしていた。


 光月君が私に近付き、『俺と付き合って下さい』って、にっこり微笑んだ。


 私は光月君の澄んだ瞳に、吸い込まれそうだった。


 まるで……。

 魔法にかかったみたいに。


 私は……。

 光月君の前で、動けなくなった。


 光月君は私の眼鏡を外して、髪もほどいて、『綺麗だよ』って言ってくれた。


 親にも言われたことがないその言葉に、私の頬が熱を帯びたように火照る。


 そして……。

 優しく触れた唇。


 私のファーストキス。


 あれが全部、全部、嘘だったなんて。

 騙された自分も情けないけど、騙した光月君のことが許せない……。

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