和side
5
私は部屋のベッドに寝転がり、窓から外を見ていた。
――ピピッピピッ……。
小さな電子音に、
「微熱がまだ下がらない」
ベッドの枕の横には各教科のテキストが数冊積み重ねてある。体温計を置き、英語のテキストをパラパラと捲った。
テキストを捲っているのに……。
脳裏に浮かぶのは光月君の顔。
ベッドの横にあるサイドボードの抽斗から、お気に入りの小さな手鏡を取り出す。
ぼさぼさの髪、泣いたせいか、発熱のせいか、瞼は腫れぼったい。
「……ひどい顔してる」
右手の人差し指で、唇をなぞった。
光月君に……キスされた唇。
ファーストキスだったのに。
焼肉食べ放題の賭けに利用されたなんて、このまま泣き寝入りするのはやっぱり悔しい。
◇
―五日前―
私は電車の中で、突然男子に声をかけられた。優しい声に振り返ると、そこに立っていたのは、同じ高校の光月聖也君だった。
『林、一人?』
私はいつだって一人だよ。
以前は友達もいたけど、成績が学年一位を独走し始めた頃から、みんな私に近寄らなくなった。
『ガリ勉』と陰でアダナをつけられ、勉強ばかりしている私を笑っていることも知っている。
ひとりぼっちが好きなわけじゃない。
私だって友達が欲しかった。
でも、誰も友達になってくれなかった。
電車に揺られながら、チラッと光月君を見上げた。
『学園のアイドル』『学園の王子様』女子からそう呼ばれている光月君が、私に微笑みかけている。
いつも日陰にいる私には、光月君のきらきらと光る白い歯が太陽みたいに眩しかった。
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