「聖也、林に惚れたなら、また落とせばいいじゃん。謝れば一日で落とせるんじゃね? お前はなんてったってこの学校のアイドルなんだから」


「また落とす? ガリ勉の林を? そっか、そーだよな。また落とせばいいのか。何だ、簡単だよ。急に腹減ってきた。おじさーん、カルビやハラミじゃんじゃん持ってきて!」


「オイッ! 追加すんのかよ!」


 林の涙を見て後悔していた俺は、仲直りすることに希望の光を見出し、バクバクと肉に食らいつく。


 正和と恭介は徐々に青ざめ、財布を取り出して中身を確認し合った。


「お、おじさん。ビビンバ追加! 大盛にして」


 肉をたらふく食うつもりだったのに、恭介の注文したビビンバで、不覚にも俺の胃袋は満たされてしまった。


 まんまと二人の策略に嵌まったようだ。

 二人は渋々会計を済ませると、想定外の出費に超不機嫌になった。


「このバカ! 必ず取り返すからな!」


「ゴチになりました。また宜しくな」


「チッ、けどさ、お前よく三日であの林にキスができたな?」


「アイツさ、友達いないだろ。帰る時間は毎日決まっていて、自由が丘駅で待ち伏せして同じ電車の同じ車両に乗り込んだ。偶然を装って話し掛けたんだ。次の日の朝も、駅で待ち伏せして俺から声をかけた。その日の帰りに『ずっと好きだった』って、告ったんだ。そしたら、林が『ありがとう』って、蚊の鳴くような声で頷いたんだ。それで、今朝『放課後話がある』って、校舎の裏庭に呼び出した」


「まじで、ソレだけ? たったソレだけ?」


「うん、それだけ」


 用意周到に待ち伏せをして林に告白した俺が、たった一発のビンタでズドンッと恋に落ちてしまうなんて。自分自身も驚いている。


 明日、林に謝らないと……。

 ちゃんと謝れば、きっとわかってくれるはずだ。


 もう一度告白して、俺は林と付き合いたい。


 ――そう思っていたのに、翌日もその翌々日も、正和と恭介の言った通り、林は学校を休んだ。


「……ヤバくね? 恭介……どうしよう」


「たしかにヤバいかも。林、学校にチクるかな? もしかしたら、警察に被害届出したかも!」


「マ、マ、マジで? 俺達犯罪者じゃん!」


「俺達じゃない。聖也が犯罪者だよ、逮捕だ!」


 俺は正和と恭介の言葉に青ざめる。

 俺は林に訴えられてもしかたがないことをやらかしたんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る