【1】地味子のキスを悪友と賭けました
聖也side
3
―焼肉店、
ジュージューと音を立て、炭火のコンロの上に置かれた金網で、肉がこおばしい匂いを放つ。
「ほらぁ、聖也、何、ボーッとしてんだよ。食えよ! お前が賭けの勝者だ。俺達がバイト代をはたいて奢ってやってんだからな」
「あ……うん……」
「どうした、どうした? お前らしくもない。モテ男のオーラが消えてるぞ」
「林の……一発がさ。ハートにグサッと……な」
俺は右手で殴られた頬を撫でる。たった一発なのに、頬は赤みを帯びてジンジンと痛む。
「林の涙……宝石みたいにキラッて光ってたよな」
俺は箸を持つ手を止めて天井を仰ぐ。林の潤んだ瞳が、夜空に煌めく星のようにキラキラと脳裏に浮かんだ。
「お前、まさか林に惚れたなんて言わねーよな?」
俺はコクリと頷く。
その、まさかだ。
「うっそぉーー!?」
正和が箸で摘まんでいた肉をポロリとテーブルに落とし、恭介がすかさずそれを拾って口に押し込んだ。
「確かに、林の眼鏡を外した顔は意外と美人で、ちょっとドキッとしたけど」
「……だろ? 綺麗だったんだよ。瞳が星みたいにキラッキラッしてて」
俺はボーッとしたまま、視点は定まらない。
「星は言い過ぎじゃね? アニメの見過ぎだよ」
正和と恭介は呆れ返っている。
俺をぶん殴った林和は、学園一のガリ勉だ。友達は一人もいない。いわゆる『ぼっち』の地味子。
クラス一、いや学園一、恋とは無縁の女子だった。
――そんな林のキスを賭けの対象にするなんて、そもそも間違っていたんだ。
でもあの時は、男同士の軽いノリだった。
賭けの期限は三日。
林にキスをしたら、俺の勝ち、できなければ正和と恭介の勝ち。
敗者は勝者に雅の焼肉をたらふく奢る。
賭けを提案したのは正和と恭介で、最初から俺が負けることを確信していたに違いない。
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