【1】地味子のキスを悪友と賭けました

聖也side

 ―焼肉店、まさ


 ジュージューと音を立て、炭火のコンロの上に置かれた金網で、肉がこおばしい匂いを放つ。


「ほらぁ、聖也、何、ボーッとしてんだよ。食えよ! お前が賭けの勝者だ。俺達がバイト代をはたいて奢ってやってんだからな」


「あ……うん……」


「どうした、どうした? お前らしくもない。モテ男のオーラが消えてるぞ」


「林の……一発がさ。ハートにグサッと……な」


 俺は右手で殴られた頬を撫でる。たった一発なのに、頬は赤みを帯びてジンジンと痛む。


「林の涙……宝石みたいにキラッて光ってたよな」


 俺は箸を持つ手を止めて天井を仰ぐ。林の潤んだ瞳が、夜空に煌めく星のようにキラキラと脳裏に浮かんだ。


「お前、まさか林に惚れたなんて言わねーよな?」


 俺はコクリと頷く。

 その、だ。


「うっそぉーー!?」


 正和が箸で摘まんでいた肉をポロリとテーブルに落とし、恭介がすかさずそれを拾って口に押し込んだ。


「確かに、林の眼鏡を外した顔は意外と美人で、ちょっとドキッとしたけど」


「……だろ? 綺麗だったんだよ。瞳が星みたいにキラッキラッしてて」


 俺はボーッとしたまま、視点は定まらない。


「星は言い過ぎじゃね? アニメの見過ぎだよ」


 正和と恭介は呆れ返っている。


 俺をぶん殴った林和は、学園一のガリ勉だ。友達は一人もいない。いわゆる『ぼっち』の地味子。


 クラス一、いや学園一、恋とは無縁の女子だった。


 ――そんな林のキスを賭けの対象にするなんて、そもそも間違っていたんだ。


 でもあの時は、男同士の軽いノリだった。


 賭けの期限は三日。

 林にキスをしたら、俺の勝ち、できなければ正和と恭介の勝ち。


 敗者は勝者に雅の焼肉をたらふく奢る。

 賭けを提案したのは正和と恭介で、最初から俺が負けることを確信していたに違いない。

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