二人は苦笑いしながら、林に話しかけた。


「ごめんな。これ、賭けなんだ。林に聖也が三日でキス出来るかどうか」


「そっ、悪いな林。お前が拒否ってくれたら、俺らの圧勝だったのに。お前、堅物だから絶対に落ちないだろうって思ってたのに、コロッと落ちちまうんだから、俺らの惨敗だよ」


 二人の言葉に林がキッと俺を睨んだ。羞じらいで染まっていた赤い頬は、怒りで震えている。


 ――次の瞬間、パチンッという大きな音とともに、頬に衝撃が走った。


「い、いってぇぇ……」


 林の平手打ちを喰らった俺は、あまりの迫力に体がぐらついた。


「いってぇ……、は、は、林……」


 頬を触りながら、俺は林に視線を向けた。林は唇を噛み締め、大きな瞳に涙を溜めて俺を睨んだ。


 林の瞳から、大粒の涙が零れ落ちた。その涙はポロポロと頬を濡らす。


「……っ」


「サイテー! 大、大、大っ嫌い!」


 林は俺の右手から黒縁眼鏡を奪い取ると、その場から走り去った。


 林の長い黒髪が、左右にサラサラと揺れた。俺は呆然と立ち竦み、走り去る林の後ろ姿を目で追った。


 アイツ……。

 泣いて……た?


 俺が……。

 泣かせ……た?


 今まで女子とは数え切れないほど付き合ってきたが、殴られたこともあんな風に泣かせたこともない。


 俺は林の涙に激しく動揺している。


 それはまさに、稲妻に打たれたような衝撃だった。感電したみたいにビリビリと電流が体を貫く。


 ――この瞬間……。


 懺悔の気持ちと共に、俺のハートは恋の矢に射貫かれた。

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