第6話 始めての魔法

 あれから数日。

 シイバに言われたとおり魔力を高める訓練をしながら過ごしている。




 ラミネも次の日にはいつも通りの笑顔を見せてくれた。








 そんな日が二十日過ぎて。

 久しぶりにシイバが俺の部屋にやって来た。




「どうだ? 毎日訓練してるか?」




「してたよ」




「そうか、それじゃ今日は訓練場に行って水を出す練習してみるか」




「オォ、やっと魔法らしくなる。

 基礎訓練飽きてきたんだよね」




 二人は訓練場に向かった。






「魔法を覚えても基礎訓練は聖域にいる間は毎日続けないとダメだぞ。


 ここにいる間しか安全に魔力量を増やすことが出来ないと思った方が良いからな」


 前を歩くシイバはそう忠告した。



「そうなの?

 外はそんなに危険なの?」




「場所にもよるな。

 大きな街の中はそれほどの危険はないけど


 それでもお前はあまり見ない種族だし目立つからな。


 泥棒とかはもいるしな。


 その時、魔力切れだと心細いぞ?」




「そうか、でも、どのくらい魔力量を増やしたらいいの?


 無限に増えたりするの?」




「増える魔力量は人それぞれ違う。


 だから増えなくなるまで毎日訓練したほうがいいと思うぞ。


 安全な場所ならなおさらな」






 そんな話しをながら歩いて北区の入口に着いた。




「水神様から北区の訓練施設に入る許可を貰っておいたから。


 魔法の訓練はこれから行く魔法訓練場でしてくれ。


 ただし、絶対に一人では来るな。


 竜人族の中にはお前を良く思ってない者もいる」




「解った」




 俺は少し落ち込んでシイバの後ろを付いて魔法訓練場に入った。






「よし、まずは魔力を水に変えるイメージをして


 それを目の前に出すイメージだ。


 最初は少しでいいからな」




『魔力を水にそして、前に出す!』




 心の中でつぶやいた。




 ザーと目の前に水が流れた。




「やった!水魔法使えた!」


 俺は初めての魔法に興奮して叫んだ。




 「良いぞ。

 次は、魔力を圧縮してあの的を狙ってみろ!」


 シイバ一つの的を指差した。




 俺は頷くと


『魔力を圧縮して…的を狙って撃つ』




 水の球は前に飛んだけれども的には当たらなかった。




「最初は指先から水を飛ばして的を狙うイメージの方が当てやすいぞ」




 俺は指先を前に伸ばして的に狙いを付け…圧縮した魔力を水に変える。


 小さな水球は的に向かって飛び


《ドン》


 真ん中に命中した。




「よし!」




 俺は嬉しくてニヤニヤする。




「おぉ。なかなか呑み込みが早いぞ。


 次は圧縮魔力で体の前に水の壁を造るようにしてみろ」




 両手を前に出し壁をイメージする。


 すると薄く水の壁が現れた。




「そうだ。

 魔力を増やすと厚くなるし強い魔力で造る、強度が高くなる。


 それじゃ、少し魔力を増やしてみろ」




 壁の魔力を少しずつ多くしていくとだんだん厚さが増していく。




「よし、いいぞ。


 初日はこのくらいにしておこう」




「もう少し練習するよ」


 水球を的に向けて打つ。




 シイバは何も言わず腕を組んで観ていた。




 俺、魔力を増やして大きな水球を打ったり魔力を強くして硬い水球を打ったり連続で打ったりしていた。




『あっ!』


 急に体の力が抜けて膝から崩れ落ちた。




「魔力切れだな。どのくらい魔法を使えば魔力切れになるか解ったか。


 基礎訓練の時とは違って体に力が入らないだろ?」




 基礎訓練の時に魔力切れになると、体は怠くなったが、魔法で魔力切れになると体の力が入らない状態になった。




「魔法を使う時は魔力と体力の両方を使う。


 だから、魔力だけじゃなく体力も付けないと動けなくなるんだ。


 お前の体ではまだ無理かもしれないがな」


 シイバは笑った。




『竜人の成長速度がうらやましい。

 俺が大人になるのに何年かかるんだ?』




 シイバに抱き上げられて俺は自分の部屋に戻って来た。


 シイバは俺をベッドに寝かせると


「今日は休むことだな」


 そう言うと部屋を出て行った。








 俺は部屋で一人になると初めて魔法を使った喜びと体の疲れとで笑顔を浮かべたまま眠りについた。








 俺が眠りについた頃。

 聖域に一匹の来訪者が現れた。




『あいつもそろそろ喋れるようになったかな?』




 黒猫が一年ぶりに戻って来た。


 背中には白い袋を背負って。






『水龍久しぶりだな』


 黒猫は水龍の部屋に入ると水龍神に語りかけた。




『雷…』

『そうだ、あいつはそろそろ喋れるようになったか?』


 水龍神の言葉を遮って語りかける。




『アァ、話せるように…』

『なら魔法とか適当に教えておいてくれ。


 それとこれ、あいつのアイテムの袋だ。


 中に着替えとか必要そうな物を見繕って入れてあるから、あいつに渡しておいてくれ』


 黒猫はそう言うと部屋を出て行こうとする。


『待て!何処行く』


『まだ三日月国しか回れてないから、もう少し観て回って来る。


 私の大切なモノの在処も調べないとな』




『それより、あいつフゥのことはどうする。


 どこまで教えたらいい?


 お前のことや魔法のこと。

 世界のこと』




『フゥ? あぁ、あいつの名前フゥにしたのか。それはそれで面白い。


 まぁ、魔法は覚えられるだけ教えてくれ、あいつの属性はたぶん風だぞ解ったいると思うがな。


 それと私の名前ことはそうだなぁ…………『ラィ』とでも言ってくれ。


 世界のことは基本的なことは教えて、あとは適当に…いい感じに少しぼやかし…………お前に任せる!』




 黒猫のラィは逃げるように聖域を出て行った。








 水龍神はそこにポツンと残された袋を深い溜息をついて見た。




 『次はいつ来るのか。』

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