第5話 竜人『シイバ』と魔法


 他と違う色の竜人の後を付いて歩いていたのだが、俺のまだ短い足で走る速さではすぐに置いていかれてしまう。




 俺が中央ホールの西口に着いた時にはその姿を見失っていた。




 キョロキョロと西口の前でしていると竜人の男シイバがこっちに向かって走ってきて


「コラ!

 フゥは西区に入ってはダメだぞ!

 フゥは東区とこの中央区以外は立ち入り禁止だ」




「この先の西区は何があるの?」




「この先は外交区だ。

 転移門と大使館がある。

 だから、勝手に入って問題を起こすと外交問題になるぞ!」


 俺はシイバに怒られた。




「シイバは今日何してるの?」




「オレはお前のおもりが今日の仕事だ!


 ラミネの調子が悪くなって交代したんだ。


 だから、今日は問題を起こさないでくれよ!」


『おもりって……』

「ラミネは大丈夫?」



「あいつは……一年前に聖域の外から帰って来たんだ。


 それで、外の旅で何か辛い経験したらしく詳しくは誰にも話さなかったがな。


 たまに調子が悪くなることがあるんだ。


 まぁ、落ち込んでもすぐ次の日にはいつも通りにしているから。


 大丈夫だ!」




「そうなの?

 俺が魔法の話して暗い顔になったから気になって」




「魔法の話か?


 ラミネは魔法が得意だからな。


 外の世界では名の知れた冒険者だったぞ。


 でも、冒険者を辞めて帰って来てからは、あまり積極的に魔法を使う事はないかな」




「へー。俺も魔法習いたいけどラミネに魔法の話はあまりしない方が良いのかな」




「それなら、オレが教えてやってもいいぞ?

 水龍神様の許可がないと勝手には出来ないけど……


 許可を貰いに今から行くか?」




「本当!

 許可貰いに行こう。早く!」




 俺は早足にシイバの手を引っ張って水龍神の所に向かった。








 しかし、俺の足はまだ短く全然辿り着かない。


 途中で息が上がり始めていると観かねたシイバが俺を抱き上げて水龍神の部屋に連れて行ってくれる。








 水龍神の部屋は居住区のある東区の一番奥にあり、そこにいつものように水龍神は横たわっていた。




「水龍神様。

 シイバです。

 フゥを連れて来ました。

 フゥから話があるそうです」




「ホラ。

 自分で聞け」


 俺はシイバに背中を押され水龍神の前に立たされた。




「水龍神様。

 そろそろ魔法の使い方を勉強したいのですが…許可をくれませんか」




 水龍神は少し頭を上げると俺の目を見つめて


『アイツに聞かないとならんが……


 基礎訓練くらいなら覚えておいた方が良いだろう』


 そんな言葉が頭に響く。




 


 水龍神はシイバに何か語りかけるているようでしばらくして、シイバは一礼すると俺を抱き上げて部屋を出る。






「どこで魔法の勉強する?」


 シイバは東区の通路を歩きながら聞いてきた。




「魔法の訓練なら広い場所じゃないとダメだよね?」


「いやいや、今日はまだ最初だから広い場所じゃなくても大丈夫だ。


 まず、お前は竜人族じゃないから、どの属性の魔法が使えるか解らないし


 それにオレが教えてやれるのは水魔法の基礎だけだぞ?」




「エェー!

 水魔法の基礎だけぇ!」




「仕方ないだろ。オレ達は水魔法しか使えないんだから。


 それにアノ黒猫の許可がないと中級以上の魔法は教えられないんだから」



「水龍神様は神様なんでしょ?


 それならアノ黒猫が後で何か行ってきても大丈夫じゃないの?」




「アノ黒猫って言ってるがな、アノ黒猫は水龍神様と同格の神様らしいぞ。


 だから、水龍神様でも勝手には許可出来ない。


 あまりわがまま言ったら基礎魔法も教えられないぞ!」




 俺は渋々頷くと食堂のある中央ホールに連れてこられた。








 俺は端の方にある椅子に座らされ、シイバはテーブルの向かい側の椅子に座った。




「それで魔法の基礎だけどなまず頭の中心に意識を集中して魔力を貯めるイメージをしてみろ」




 俺は意識を集中して魔力を貯めるイメージをしてみた。


 しばらくすると頭の中で透明な何かが集まっているように感じた。




「こんな感じ?」




 そう言った瞬間。

 頭の中の透明な何かはスッと消えてしまった。




「まぁ、最初はそんなもんだろう。

 小さくて弱いが魔力を感じた。すぐに消えたがな」


 シイバは笑顔を見せた。




「今度はそれをもっと集めて今のお前の限界まで出来るだけ大きくしてみろ」



 俺は集中して出来るだけ大きく魔力を貯めた。


 俺の中にあった魔力が全て頭に集まった感じがした。




 「よし! それじゃあ、その魔力を今度は圧縮するようにして」




 ギュッと外側から力をかけるように少しずつ圧力をかけていく。




 集めた魔力が半分程度の大きさになった時。

 集中力が切れて体の力が抜け、その瞬間貯めていた魔力は全て消えた。




「初日はそんなもんだろう。


 魔力を使い果たして体の力が抜けただろう」



「ウン」


 俺は怠い体で頷く。




「今日はここまでだ。 

 これからこの訓練を毎日寝る前にやることだ。


 一晩寝ると魔力は回復して前日より少し増えているはずだ。


 それを繰り返して魔力の総量を増やして圧縮することで魔力の強さを高めていく」


「それで、そのあとどうしたら魔法が使えるの」



 シイバは食堂からコップを持ってくるとその中に水を出した。




「こうやって魔力を水に変えるのが水魔法だ。


 魔力の総量が多いと出せる水も多くなるし強い魔力にすると強力な攻撃魔法になったりする。


 そして、自分の中の魔力を調節して水を自在に操ったり、魔法で出した水を吸収して魔力を回復したり、いろいろ応用出来る。


 まぁそれは中級以上の魔法になるからお前に教えられるのは水を出すのと、あとウォーターボールくらいの攻撃魔法かウォーターウォールくらいの防御魔法だな」




『なんか……ショボイ』




 心の中でそう思いながらシイバに笑顔で頷いた。

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