第4話 竜人『ラミネ』と魔法
一歳になった俺は歩いたり少し走れるようになり聖域内を散歩するようになっていた。
体はまだ小さく周りからはまだ赤ちゃん扱いされていて、どこに行くにも誰かが付いて来る。
青月のある日。
新しい竜人の赤ちゃんが生まれた。
俺達が使っていたベッドはその赤ちゃんのベッドになり俺は少し大きなベッドのある部屋を与えられた。
俺は竜人達にとって未知の種族を育てているようで聖域の外の知識のある竜人でも扱いに困っている。
水の龍神様は
『黒猫が帰って来るまでここにいるように』
そう言っているだけで俺の前世や種族など知っているのか、知らないのかも教えてはくれなかった。
俺の体の成長は竜人に比べて少し遅かったが、前世の知識があるためコミュニケーションはとれていた。
そんな中、俺の世話をよくしに来る竜人の女性ラミネと話すことが多くなっていた。
「ねぇ、フゥは今日はどこか散歩行くの?」
ラミネは朝食を運んで来てそう聞いた。
「うーん。この世界のことを知りたいから本とか読みたいかな」
「本?」
ラミネは首を傾げる。
「図書室とか資料室とかない?」
「あるらしいけど、ここ数千年は使われてないから、わたしもどこにあるか知らないのよ。
今は水龍神様くらいしか知らないよ、きっと」
「じゃあ、言葉とか文字とかはどうやって覚えているの?」
「わたし達は最初の白月になったら、この石を貰うの」
胸に下げた鎖の先に付いている石を見せてくれた。
「これは魔法石。
わたし達水の竜人族は生まれつき水の魔法しか使えないの。
だからこれは水の魔法石ね。
そして、この石には竜人族の知識を蓄えるたり引き出したりできる魔法がかけてあってね。
知識はそれで学ぶのよ。
この石は他の全ての水竜人達の石とつながっていて、それぞれが自分の知識をこれで共有するの」
「それじゃ、それを盗まれたりしたら竜人族の知識が盗まれるんじゃない?」
「それは大丈夫よ。
最初に魔力と生体情報を読み込ませていて、本人にしか使えないから」
「盗まれたり、無くしたりしたら?」
「聖域内なら他の人に探して貰えばすぐに解るし、聖域の外に行く時は首から下げて盗られないように持って行くのよ」
「俺、それ貰ってないけど?」
「それはさ…フゥは竜人族じゃないから魔力の質が違うのね。
だからわたし達と同じ物は使えないのよ。
水竜神様はアノ黒猫が帰って来るまでは、あなたのことは詳しく話せないらしくてね」
ラミネは少し困った顔をした。
「そうだ!
さっき魔力とか魔法って言ってたよね。
それ俺はどうしたら使えるの?」
「魔力はみんな持っているから魔法は訓練次第で何かしらは使えると思うけどね。
ただ、あまり期待し過ぎるのはやめてね。
魔力は持って生まれた資質があるから、わたし達みたいに水の魔法しか使えないこともあるし……
他の種族でも三つの属性の魔法を使えてたとしても、人それぞれ強さとか大きさが違うわ」
ラミネは何かを思い出したかのように暗い表情を浮かべうつむいた。
そして、その後暗い表情のまま
「じゃあ、またね」
手を振ると部屋を出て行った。
一人部屋に残された俺は少し冷めかけた朝食を食べながら
『今日は何をしようかな?』
そんな事を考えていたが、ラミネの最後の暗い表情を思い出して心の中がモヤモヤしていた。
『アー! 黒猫早く帰ってこいよ!』
俺は黒猫に八つ当たりするように叫んだ。
ある日。
朝食を食べて食器を片づける為に部屋を出て聖域の食堂へと向かった。
俺の部屋は聖域の居住区の端にある。
部屋の造りはどの部屋も一緒だが、新人は居住区の入口近くに部屋を与えられる。
俺は食堂がある中央ホールに歩いて向かい食器を返却すると食堂ホールを見回した。
そこには他の竜人達と違う色をした竜人がいる。
その竜人は食事を終えて席を立ちこちらにやって来て、無言で食器を片づけると中央ホールから出て行った。
俺はなんとなくその後を付いて行ってしまった。
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