第3話 1年目の成長と名前



 黒猫が部屋から飛んで行った後。

 俺ともう一人の赤ちゃんは部屋を移動して最初に連れてこられたフワフワのベッドのような所に並んで寝かされた。






 その後。

 何時間おきかにミルクのようなものを飲まされて数日が経つ。




 俺達の世話をしに来る竜人を観察したり、隣に寝かされた竜人の赤ちゃんを観察したりしているうちに、いくつかのことが解ってきた。




 一つは俺達の世話をしに来る竜人は当番制なのか、男女?雄雌?なのか解らないが五人が交代で様子を観に来る。


 ただなんとなく性別はあるようだ。




 もう一つは隣の竜人の赤ちゃんは成長が早いのか、ベッドの上を動き回っていて、たまに俺の顔を覗き込むように見ている。


 俺はまだ手や足をバタバタするくらいで動き回ったりするのはもう少しかかりそうだ。








 そんな日が何日か過ぎ。

 俺も少し動けるようになって自分の体に違和感があることに気づいた。


 それは……腕が四本あることだ。


 隣の赤ちゃんは確かに竜人ではあるが腕は二本なのに俺は四本ある!




『俺の種族は何なんだ!』




 卵から生まれたり普通とは違うと思っていたけど



『それにここは異世界。

 ここの普通ってそもそもナニ?』




 ただ、いままでこっちの世界に来てから竜人以外の生物は


 龍神様と呼ばれていたドラゴン


 黒色の光の神がこの世界での姿の羽の生えた黒猫


 その他には会っていない。


『黒猫は地上に行くと言っていたから地上には他の種族もいる?』




 早く言葉をしゃべれるようになって自分の状況を知りたい。










 それからさらに十数日いろいろ変化があり、言葉が喋れるようになった。


 喋れるようになったといっても前世の記憶がある俺の言葉の発音が相手に伝わるようになっただけだ。 


 会話が成立してこの世界のことを俺達の世話をしに来る竜人達に聞いた。




 まずここは竜人達の聖地で水龍の聖域と呼ばれる場所だということ。


 聖域の外は海で海の向こうの島やさらにその向こうの大陸には竜人以外のいろいろな種族が生活していること。


 黒猫が地上といっていたのはそのことらしい。


 時間の流れが違うと言っていたのでそれも聞いてみると


 1日は12時間。


 72日で1ヶ月だそうだ。


 1ヶ月間ごとに月の色が変わり季節も変わる。




 俺達が生まれたのは『青月』地球の春にあたる。


 水竜人達は青月に生まれ


 夏にあたる赤月に成長し


 秋にあたる白月に知識や魔法、槍での戦い方を教えられ


 冬にあたる黒月に他の聖域に研修に行く準備をする。




 そして、4ヶ月で1年。




 一歳に成った竜人族は自分の聖域から他の聖域に研修として送られる。




 龍の聖域は全部で三つあり、一年ずつ研修に行くそうだ。


 他の聖域からもここ水の聖域に一人ずつ研修に来ている。




 研修先の土の聖域と火の聖域には自分の聖域の大使がいて、そこで仕事をし3歳で自分の聖域に帰って来て大人と認められる。




 ただ俺は竜人ではないので研修には行けないらしい。










 月日は流れ。

 俺達が生まれてもうすぐ一年。

 俺と一緒に生まれた赤ちゃんは成長して子供の竜人になっていた。


 名前はタケバと名付けられ土の聖域に研修に行くことになっている。




 タケバと他の聖域から来ている竜人の壮行会のパーティーが開かれた。




 その次の日。

 タケバとそれぞれの聖域の研修生は土の聖域につながる転移門で旅立って行った。




 そして、隣の火の聖域につながる転移門からは新たな研修生と2年間の研修を終えて帰ってきて大人と認められた竜人が現れ、歓迎会のパーティーが開かれる。




 そんなパーティーの日々が終わり、また日常に戻っていく。








 そして、一歳を迎えた俺の成長。




『一年経っても俺だけ成長遅くない?』




 俺はまだ歩き始めてやっと少し走れるくらいで、まだまだ赤ちゃん扱いを受けている。




 そして、名前は




『フゥ』




 そう名付けられた。


 いつも「ふぅー」とため息をついていたから『フゥ』になったらしい。




 俺は前世からの自分の癖に悲しくなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る