第5話 現実逃避 4

 時刻は、まだ正午を少し回った所だ、まだ時間も早いので僕は闘技場に見学に行くことにした。

 

 闘技場は古代ローマのコロッセオの様な円筒形になっている。中に入ると中央部に円形の舞台があり、それを取り囲むように客席が並んでいる。

 

 席に着いて入口で貰ったパンフレットを見てみると此処では、剣闘士同士の戦いの前に余興みたいな感じで、抽選で選んだ観客同士を戦わせ、五回勝ち抜けば、賞金50万ゴールドが貰えるらしい。

 

 パンフレットに書かれた番号が抽選番号になっており、すでに客同士の戦いが始まっている。次々とパンフレットに書かれた番号が読み上げられる。

 

 選らばた客は、断る事も出来るが、闘技場に来る様な客は、こう言うのが好きな客ばかりだから、断る客は、少なかった。断るのは、だいたい女性客だが中には三人抜きまで行った女性客も居た。

 

 舞台に上がる客は、装備しているアーマー姿に成り、舞台に上がる。武器は、銃火器以外は何でも使用可能だ。

 殆んどの客は、鉄や鎖帷子、銅のアーマーを装備している。

 

 勝敗は、相手がギブアップするか一度でもダウンを奪う、または相手の体力を1/3以下まで減らせば勝ちとなる。

 戦いは、続いているが、中々五人抜き出来る客は居なかった。

 

 その内、体のデカイ鉄のアーマーを装備した客が登場してきた、身長は、僕と同じ位だが、いかにも格闘技か何かやっていそうな逞しい体つきをしていた。

 

 武器は他の客が長剣や槍などを使っている中、その客は、拳にはめるナックルダスターを装備している、よっぽど自信が有るのだろう、案の定、殆んど1発で相手を倒していく、あっと言う間に四人抜きしてしまった。

 

 圧倒的な強さだ、他の客となら、自分の装備でも互角にやれる自信が有ったが、あれは無理だなどと考えていると、次の対戦相手の番号がコールされた。

 

 「921番」と、コールする声が響く、が暫くしても誰も応え無い、ザワつく観客達そりゃあんなのと戦いたく無いよな、などと考えていると、「921番の方」と、またコールする声が聞こえてきた。

 

 断れば良いのにと思いつつ、ふと自分

のパンフレットに書かれた番号に目をやると、921番と書かれている、(チッやられた)、などと訳の分からない怒りを感じながら迷ったが、負けても死ぬ訳でも無いし、もし勝てば50万ゴールドが貰える、僕は決心し立ち上がった。

 

 大勢の観客の前を舞台に向かって歩く舞台の下まで来ると、胸を張ってアーマー姿になった。

 

 クスクスと客席から笑い声が聞こえて来る、自分ではこんな装備でも余裕なんだぞっとアピールしたつもりだったが、逆効果だった様だ。

 

 僕の格好は、革のグローブにレガ―ス、胴体のアーマーは持っていないので、上半身裸でボロボロのジーンズ姿だ、他の出場した客に革の装備なんか居なかった。

 それでも体格が良ければ格好がついたのだろが、どちらかと言うと痩せ型だった僕は、上半身裸の自分が急に場違いな感じがして恥ずかしくなった。

 

 僕は武器屋でポイントカードの引き換えで貰ったアクセサリーが有るのを思い出した。デザインが気に入らず装備していなかったが、何も付けないよりはマシな格好に成るかと思い装備した。

 

 黒い革のバンドに、銀色の稲妻の飾りが付いた、首輪の様なネックレスだ。

 

 僕が舞台に上がると客席の笑い声が大きくなった。僕は相手と同じ武器を装備した、客席の笑い声が更に大きくなった、僕は後悔した断ればよかった。

 

 今さら断る訳にもいかず、相手の顔を見るとニヤニヤ笑っている。僕は俯きながら相手に近づいて行った。

 

 相手と間近で対峙する、間近で見ると本当にゴツい体で威圧感を感じるが、先の、トラのことを考えると大した事は無い。

 

 開始のドラの音が鳴り響く、いきなり相手が突進してきた、そのままの勢いで右のパンチを放ってきた。

 前の四人は殆んどこれで、やられている、僕は左手で払う様にパンチを右側に受け流すとカウンターで右の膝を相手の腹に入れた。

 

 「ドボッ」

 

 と、いう鈍い音と共に一瞬、相手の体が宙に浮き、そのまま腹を抑えてうずくまり動かなくなった。

 

 闘技場全体がシーンっとなる、暫くしてどよめきが起こりやがて大歓声に変わっていった。自分でもよく分からないまま勝ち名乗りを受け、次の相手と対峙した。

 

 軽いパンチや蹴りで次々と相手が倒れて行く、気が付けば五人目を倒し勝ち名乗りを受けていた。

 

 僕は、自分にインドラの神(軍神)でも降りてきたのだろうか、などとボーっと考えながら50万ゴールドを上の空で受け取ると、元の白いヨレヨレの長袖Tシャツ姿に戻し、ネックレスを外して自分の席に戻った。

 

 自分の席に戻ると、何人かの女性プレイヤーに取り囲まれた。

 

 「強いですね~」

 

 「名前なんて言うんですか」

 

 「メガネとマスク外して下さい」

 

 と、話し掛けて来る、この状況は嬉しい反面、舞台に上がった時より辛い状況だ、僕は居たたまれず逃げる様に席を立った。

 

 闘技場を出る際に、闘技場関係者に剣闘士として、何時でも戦いに来てくれと言われたが、曖昧に返事をして闘技場を後にした。

 

 本当に自分にインドラの神が・・・、などと考えながら自分のマンションに向かって歩いていると、途中でバイク屋を見つけた。

 

 店の中には入らず店内に並べられたバイクを外からガラス越しに眺める、アメリカンタイプのバイクがズラリと並べられていた。カッコいい、だが高い、安いバイクでも200万ゴールドはする、僕が良いと思ったバイクは300万ゴールド近い値段だった。

 

 僕の今の全財産は60万ゴールドで全然足りない、安いバイクなら買える、一輪バイクなどは20万ゴールド程度だ、どうせ買うなら好きなバイクの方が良いが、当分買えそうに無い、悩んだ末、300万ゴールド貯まる迄の足として一輪バイクを買う事にした。

 

 一輪バイクを購入し、バイク屋の前の駐車場から、通りに出ようとバイクに股がった。

 

 「ドッドッドッドッ」

 

 と、低いエンジン音を響かせながら一台のバイクが駐車場に入って来た。

 黒いタンクに、走る狐がペイントされたアメリカンタイプのバイクだ。

 

 (うわ~、カッコイイ~)

 

 と、呆けた顔でバイクに見とれていると運転手がバイクから降りる。

 

 ライトグレーのウェーブのかかった長い髪、長身でモデルの様な体型。

 アーミーグリーンのタンクトップに同じ色の細みのカーゴパンツ、コンバットブーツに狐の半面を被った、女性プレイヤーだ。

 

 狐の半面から覗く、切れ長の鋭い瞳、唇と顎のラインが、たまらなくセクシーだった。

 

 (うわ~、いい女)

 

 と、惚けた顔で女に見とれていると、女は、僕に気付き僕と一輪バイクを一瞥すると、さっさとバイク屋に入って行った。

 

 我に帰り、良いもの見せて貰った、と得した気分で、「ビ~ン」と言うショボイ一輪バイクのエンジン音と共に、バイク屋の駐車場を後にした。

 

 一輪バイクでも、やっぱりバイクは楽しい、僕は宛もなく街中を走り回った。暫く走り回って満足した僕は、お腹が空いてきたので、ユミルの居る店へ向かった。

 

 「ビ~ン」とエンジン音を響かせ店に到着すると、店の入口からユミルが飛び出して来た。

 

 「モリジーそれ何?それどうしたの?」

 

 と、ユミルが目を輝かせながら聞いて来た、僕はバイクのエンジンを切った。

 

 「これは一輪バイク、バイク屋で買ったんだよ」

 

 「ふ~ん、カッコいいね!」

 

 「これが?カッコいいか?」

 

 「うん!」

 

 話しながら店の中に入ると何人かの客が来ていた。

 

 「お前客をほったらかして表になんか出るなよ」

 

 「デヘヘ~」

 

 笑ってごまかすとユミルは仕事に戻っていった。テキパキと忙しそうに立ち働くユミルを見ながら、ずいぶん変わったな、などと考えているうちに他の客は全員帰った様だ。

 

 暫くしてユミルがビールとステーキを持って来て僕の向かいの席にチョコンと座った。

 

 「モリジーお仕事見つかった?」

 

 僕は、今日あった、ペット探しや闘技場の事を、ユミルに話して聞かせた。

 ユミルは目を輝かせ身を乗り出して聞いている。

 

 「すご~い、モリジー強いんだね!」

 

 「ああ、俺にはインドラの神が・・・」

 

 「ユミルもトラと戦いたい!」

 

 「だから俺にはインドラの・・・」

 

 「ユミルも闘技場で戦いたい!」

 

 などと不毛な会話続けていると不意にユミルが外の方を向いた。

 

 「モリジー、ユミルもあれに乗ってみたいな!」

 

 外に置いてある一輪バイクを指さしながら言ってきた。

 

 「ユミルは乗り物に乗った事あるの?」

 

 「乗った事無いよ!」

 

 「じゃあ今日はビールも飲んでないし乗ってみるか」

 

 「ヤッター、でも何でビール飲んでるとダメなの?」

 

 僕はなぜビールを飲んで運転してはいけないか、こんこんと言い聞かせた。

 ユミルは何とか納得し、ユミルの仕事か終わるのを待って一緒に外にでた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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