第2話 現実逃避 1
週末の夜、仕事が終わると、はやる気持ちを抑え、真っ直ぐに、ある場所へ向かう。
そこは、会社から駅に向かう途中に有り、人通りの多い通りから路地に少し入った先に有る。
薄暗い路地を抜けると、いきなり派手な明かりが目に飛び込んで来る。
目的地の入口だ、五階立ての、かなり大きな建物で入口も大きい。
入口はまるで、カジノか何かの様に派手に飾られ、入口の上部に、カラフルな電飾で≪アイランド、ポリス≫と、掲げられている。
そこは唯一、僕が現実を忘れ自分を解放出来る場所だ。
入口から入ってすぐの所に受付のカウンターが有り。
そのカウンターで、預けていた荷物と階数と番号がプリントされたカードキーを受けとる、それを持ってエレベーターに向かう。
ちなみに一階には食事ができる店舗が何軒か入っておりコンビニまである。
エレベーターで目的の階に到着しドアが開く、目の前に前方に伸びる通路があり、その通路を挟んで、男女別にトイレとシャワールームが設置されている。
そのまま真っ直ぐ通路を進むと、やがて広いフロワに出る、そこには五十台の卵型のカプセルが並んでいる。
カプセルには番号が振ってあり僕は、カードキーと同じ番号のカプセルに向かう、カプセルの側面のドアに、カードをかざすと、車のガルウィングの様に、ゆっくりとドアが開く、中に入りドアを閉じる。
内部は近未来の飛行機か何かのコックピットの様な造りになっており、中央に大きなシートが設置されている、このシートは、状況に合わせ寝心地良いベッドにも変化する、内部は、広くは無いが、シートの後ろに着替えが出来る位の空間がある。
早速、先程カウンターで受け取ったボディースーツに着替え、備え付けのフルフェイス型のヘッドマウントを装着し、シートに腰を下ろす。
このVRゲームは従来のVRゲームとは違い、体を動かす必要が無い、動くのは横になって寝る時くらいだ。
従って、飛んだり跳ねたり、するのに必要な広いスペースは必要無いのだ。
シートのひじ掛け部分に操作パネルが有り、。そのパネルを操作しログインすると内部の照明とパネルの明かりが消え、真っ暗になる。
暫くすると暗闇の中に開発会社のロゴが現れ、その後にスポンサーらしき会社名が何社か続き、再び暗闇に包まれ、急速に眠くなる。
僕は、何処からともなく聞こえて来る「お帰りなさい」と言う女性の声と共に覚醒し、ワンルームの部屋の中に立っている。
この部屋は、ベッド、ソファー、テーブル、テレビが有り、部屋の壁には全身が写せる位の、大きな鏡が掛けられている。飾りっけの無いシンプルな部屋だ。
ここは、オーデリー社が開発した仮想空間、≪アイランドポリス≫と言う大都市の中にあるマンションの一室、いわゆるVRゲームの中だ。
この部屋は、ゲーム開始時に与えられた僕の部屋だ。
オーデリー社は、思念だけでゲームをプレイ出来る、革新的なシステムを開発した。
原理は、よく分からないが、装着しているヘッドマウントは、いわば催眠装置の様な物で、プレイヤーを睡眠状態にし、プレイヤーの思念とVR空間をシンクロさせる、その後、意識だけを覚醒させ半覚醒状態にする。
プレイヤーは、目の前のディスプレイに写し出されたVRゲームの中を、思念だけで自由に動き回る事が出来る様になる。
リアルな夢の中に居ると、思ってもらえばいい。
さらにヘッドマウントは、空腹感や満腹感、味覚や嗅覚、痛覚や疲労感などを操る事が出来る。脳のあらゆる感覚器官に働きかけゲームの状況に合わせた錯覚を引き起こさせる。
ボディースーツは肌に感触を与える。例えば、ゲームの中で他の人がプレイヤーの肩に手を置くと、ボディースーツがプレイヤーの肩にその感触を伝え、腹を殴られればその衝撃を与える。
加えてヘッドマウントが、腹を殴られたという痛みを錯覚で感じさせる。
実際はダメージが無くても、プレイヤーは実際に殴られた様な感覚を覚える。
ゲーム中は脳の感覚気管を操られている為、実際には空腹でも空腹感を感じられ無い、その為、4時間毎に警告が与えられ8時間を越えると、強制ログアウトされ1時間の休憩を取らされる。
また、このカプセルには、カプセル内でのプレイヤーの体調の異変を、感知出来る機能が備わっており、体調の異変を感知すると、係員に通報するシステムを備えている。
この世界では数多くのプレイヤーやNPC(ノンプレイヤーキャラクター)が、生活している。
現実世界と同じように、お金を稼ぎ、そのお金で食事をし、疲れたら休む、そんな基本的な生活を営んでいる、それが出来なければ、この世界では、生きて行くことは出来ない。
NPCは人工知能で優れた学習能力があり、食事と休息を取らなければ生きていけないこの世界で、生き残る為に、自ら学習し、考え、行動している。
もちろんゲームとしての面白さを損なわない様に、非現実的な部分も、しっかりある。
この街には、現実世界の街の中にある物は、殆んど揃っている。
現実の街に、自由と独自のルール、変わった施設や乗り物、それらをプラスした街が、この≪アイランドポリス≫だ。
僕は部屋に有る大きな鏡の前に立って自分の姿を眺めた、目の前には現実世界と殆んど変わらない自分が立っている。
このゲームでは、ゲーム開始時に3D撮影した、全身のデータを元にアバターが作成される、ありのままの自分が、アバターになる。
変更出来る箇所は、声、髪型、髪の色、肌の色、目の色、年齢だけだ。
年齢は15才から80才迄の年齢から選べる、年齢を下げれば若返り上げれば未来の自分になる。
一度、試しに15才迄下げて見たが、そこにわ15才の頃の自分が居た。
服やアクセサリーなどの体に身につける物は全て変更可能。
顔や骨格を変えて別人の様になることは出来ない。
訳あって素顔を晒したくない人は厚化粧か、メガネやマスク、お面や被り物を被っている。
この街は、海上に浮かび、円形に広がる巨大都市だ。公共の乗り物は電車とバスが地上15メートル位の所を飛んでおり、それ以外にも様々乗り物が走り回っている、いずれは、それらの乗り物に乗って街を一周して見たいと思っている。
街の中心部に居住区があり居住区を取り囲む様に他の区画がある。
北側は、行政の建物やオフィスビルが立ち並ぶ。
東側に、スタジアムやコンサートホール、闘技場などが幾つもある。
西側は、アミューズメントパークやテーマパーク、カジノまである。
南側は、警官も寄り付かないスラム街が広がっている。
僕の部屋はマンションの最上階に有り窓からの景色が良い、特に色とりどりのネオンに飾られた街の夜景は格別だ。
マンションの周辺だけでも、いろんな店や施設が有り一日中歩き回っても、飽きる事が無い。
部屋から出てエレベーターに乗る、その間に、二人の他のプレイヤーとすれ違う、同じこのマンションの住人だ。
一人は青い髪の羽の生えた天使の様な格好をした女性。
もう一人がパンクロッカー風の格好したニワトリの被り物を、被った男。
この街には、いろんな格好をしたプレイヤーが沢山いる。
このゲームでは、開始時にこの世界で使用するお金の、20万ゴールド、住居、スマートホンと、ランダムで服と顔を隠すアイテムが支給される。
僕の格好は、髪は白髪、ヨレヨレの白い長袖Tシャツに、ボロボロのジーンズ、分厚い黒ぶちの丸メガネに、白い普通のマスク。
これらは、全部ゲーム開始時に、支給されたアイテムだ、靴だけは僕が、この街で買ったショートブーツ、1年間このスタイルだ。
エレベーターで一階まで降りマンションを出る、この世界の時間は現実世界の時間と同調しており1日24時間サイクルで動いている、今現在の時間は22時だ。
こんな時間でもマンションの前の広い通りを、さまざまな格好した大勢のプレイヤーやNPCが行き交っている。
このゲームのサーバーは、1つしか無い、その1つのサーバーで、プレイヤーを1000万人まで収容出来る。
僕が子供の頃は1つのサーバーで10万人が限度だった、今でも多い所で100万人程度、1000万人は桁外れだ。
目の前に空間ディスプレイをだし所持金とアイテムを確認する。
所持金は10万ゴールド、アイテムは今身に付けている物のみ。
ゴールド、とはこの世界で使用するお金で1ゴールドは現実世界の1円だと思って貰えばいい、この世界で使用する、お金は、この世界で稼がねばならない。
その稼いだお金で食料を買い、家賃を払い、この世界を楽しむ為のアイテムを買い揃えるのだ、この世界で無料なのは現実と同じで水くらいだ。
物価も現実世界と、ほぼ一緒なのだが
現実世界と違う所は、お金を稼ぐのに、それほど苦労しない所だ、一日働けば現実世界の二日働いたのと同じ位のお金が手に入る。
ゴールドを稼ぐ方法は、現実世界と殆んど変わらないが、依頼などの仕事をこなしたり、色々有る大会に出場して賞金を貰う稼ぎ方も有る。
仕事は、ワークギルドと言う施設に行けば紹介してくれる。
ゴールドを稼ぐ為に、コンビニでバイトをした事があるが、1日で辞めてしまった、とゆうか無断欠勤したらクビになった。
ここ≪アイランドポリス≫では、自由に職業を選べる、一般的な職業から歌手やアイドル、モデルやプロスポーツ選手など、他にも色々あり、どれでも好きな職業に就ける。
面接やオーディション、プロテストと言った様な物は一切無い、ワークギルドで登録するだけだ。成功するかどうかは本人次第だ。
実際にこの世界で活躍している歌手やアイドル、様々なプロスポーツのスター選手も居る。
後もう一つ、ゴールドを稼ぐ方法がある、他のプレイヤーやNPCを、脅して奪うか、殺すだけ。
殺されたプレイヤーやNPCは、今まで稼いだゴールドとアイテムを全てその場にドロップし消滅する。
殺した側はそれを拾うだけだ。
プレイヤーは、死んでしまうと、この世界での存在を抹消され、二度とこの世界に復活する事は出来ない。
この≪アイランドポリス≫をプレイ出来るのは、一人一回のみだ。
それはNPCも同じで一度消滅すると二度と同じNPCが現れる事は無い。
この街の楽しげな雰囲気の中に、独特な緊張感が漂っているのはその為だ。
もちろんこの街にも秩序はある、そういった行為を、警官に見つかれば犯罪者として追われる事になる。
警官で無くても、NPCや他のプレイヤーに犯罪を目撃されると通報されたり攻撃される事も有る。
犯罪者への攻撃は許可されている、プレイヤーが犯罪者を殺してしまっても、罪に問われる事は無い。
それを仕事にしている、賞金稼ぎなる職業もある。
犯罪者は警官に大人しく捕まる事も、抵抗して逃げる事も自由だ。
抵抗した場合、命を落とす事もある。
上手く逃げれた場合でも、一定期間、指名手配され、街の至る所に、指名手配の顔写真が貼られる。
一定期間、逃げきる事が出来れば無罪放免となる。
NPCを殺しても全ゴールド没収程度で済むが、他のプレイヤーを殺して捕まると、ゴールドとアイテム全没収その上、刑務所に一定期間拘留される。
一定期間拘留と言うのは、狭い独房に身動き出来ない状態で、最長二十四時間監禁されると言うもの。
一見、軽く見えるが、ヘッドマウントには、睡眠と脱着を感知する機能が備わっており、監禁中に寝たり、外したりすると監禁時間のカウントがストップする。
監禁中にゲームを終了してもその時点で時間のカウントがストップする、再開も独房からになる。
独房の中、身動き出来ない状態でただじっと二十四時間、時が過ぎるのを待つのは、かなりの苦痛だろう。
これは、この世界で犯罪を犯すプレイヤーの大きなリスクになり、犯罪の抑止力になっているはずだ。
今日は時間も遅くなったのでマンションの目の前にあるコンビニに寄って自分の部屋に帰った。
時間は23時を過ぎているが通りの人通りが絶える事は無い。
部屋に戻り、この世界のプレイヤーの女性アイドルが出ているテレビを見ながら、ビールを飲み弁当を食べた。
明日は何処で何をしようかなどとワクワクしながら考えているうちに、いつの間にか深い眠りに落ちていった。
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