1-2

瀧聲は梟の妖だ。

親友と生き別れた悲しみと後悔から、人の形を取って何百年も彷徨い歩く存在。


梟として生きた年月は、妖として生きている今よりも圧倒的に短い。


「梟は肉食だから、小鳥だって食べるんだけどな……」


傍に掛けてあった梯子を持ってきて、巣の高さまで登る瀧聲。

指で触って確認すると、乾いた泥がポロポロと崩れる。


「確かに食べられないな……ここだけ食べられる、みたいな部分はない?」


指を引っ込めた瀧聲は、今度はグッと巣に顔を近づけて観察する。

大食漢で食べることが大好きな彼は、なかなか諦められないようだ。


だが、我が家を物色された燕も黙ってはいない。

覗き込んだその顔を、容赦なく突っついてきた。


「いたた……悪かったって。食べたりしないから。大丈夫」


頬を突っつかれた瀧聲は、降参のポーズをすると少しだけ距離を置く。

その時、燕の足元からチラチラと何か固いものが覗いていることに気づいた。



「ん、あれは……卵?」


無機質で滑らかな表面が、柔らかい羽毛から時々顔を出す。

どうやら、子育ての真っ最中らしい。


「卵があると分かってたら、巣を取ろうなんてしないよ。……一応、僕も親戚だし」


親は子を守るもの。

いくら常識のない瀧聲といえど、それぐらいは知っている。


親燕と距離を置いたまま、瀧聲は目視でその数を数える。卵は全部で四つあった。



「……無事に育つといいね」


優しく声をかけると、邪魔をしないようにそっと梯子を降りた。

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