第78話 女の子は複雑です。

 サークルスペースの設営はPOPの恥ずかしさこそあるものの、滞りなく進んでいく。

 お隣さんに挨拶と見本を渡し合い、準備会が確認に来た時に見本誌を提出。

 

 「じゃぁ着替えてくるから暫くよろしく。」

 「お願いします。」


 真人と友紀は手伝いで来てくれている千奈にサークル番をしてもらう。

 「あ、うん。私は私で目の保養してるから良いよ。」


 

 真人と友紀はコスプレ衣装等の詰まっているキャリーケースを片方の手で転がし、もう片方の手は互いの手を握っている。


 「う~ん、一番の目の保養は目の前にいたのぅ。にやにや。」



 「もしかしてカップルですか?」

 隣のサークルの男性が千奈に話しかけてくる。


 「今はですねぇ。もういつ夫婦になるんだかって感じで。」


 「いいですね。カップルや夫婦で同じ趣味を持ってると。」


 「頭ごなしに否定されるよりは良いでしょうけど、実際はどうなんでしょう。歯止めが利かなくなるとかなければ良いですけどね。」


 「確かに。」

 「お前の彼女はヲタ系じゃないもんな。まぁがんがれ。彼女がいるだけでも勝ち組だ。」

 なんて会話で隣のサークルの男性二人が盛り上がる。


 千奈が周りを見渡すと、友紀のサークルが珍しくないくらいには華やかなのが伝わってくる。

 POPや幟を出しているコスROMサークルは結構多い。

 というより結構ぎりぎりを攻めているサークルも見かける。


 「そのPOP、あの二人ですよね。百合にしか見えない……」

 誕生日席じゃない角席のサークルの女性が話しかけてくる。

 既に着替えていたのかコスプレ衣装に身を……

 あ、これ際どい。お兄ちゃんに見せたらあかんやつだと千奈は思った。


 「結構攻めてますね。」


 「冬に臍だしは結構きついですけどねー。そこはキャラに対する愛ですよ。」


 「そういえばお兄ちゃん達もそんな事言ってましたね。」


 「このPOPを見たらお兄さんではなくお姉さんですけどね。」


 「あははー。」


 なんて意外と盛り上がったりしていた。


☆ ☆ ☆


 40分もすると行きと同じように手を繋いで歩いてくるバカップル……もとい、真人と友紀がスペースに戻ってくる。


 「お兄ちゃん……へそ出しって。まさかの友紀さんまで!?」


 

 「友紀さんの臍は俺だけのもんだ。千奈でも見せん。」とは流石に真人も言えなかったが、心の中では思っていた。


 「まぁ背伸びとかしなければそんなに臍は見えないから。千奈は何を張り合ってるのさ。」

 

 真人がボカロのピンクの人、友紀がブロンドの妹の人。真人曰く、流石にMEIKO姐さんは無理だった、俺も友紀さんもとの事だった。


 「おにーさん達も攻めてるじゃないですか。」

 件のMEIKOさんがそこにはいた。

 隣接サークルで3人もボカロが揃ったぞと。



 「おはよう。」

 そんな時にやってきたのが五木達天草夫婦。

 KAITO兄さんな五木とブロンドの男の子の方は真理恵。

 本当に少年っぽく見えるから恐ろしい。女性レイヤーって本当に凄いと思う真人だった。


 「あ、なんか今の所被りがないですねー。」

 隣サークルのMEIKOさんが話しかけてくる。



 

 「おはおつかれさまーです。」

 遅れてやってきたのはみっくみくにしてやんよな二人。

 雑音ミクの白米とAppendなミクのみゅいみゅい。

 こいつら男性カップル同士でミク合わせとかアホだろと、知り合い数名は感じていたはずである。


 亜種まで揃えたらある意味どれだけ人数が居ても足りない。

 この場の誰もが思っていたに違いないだろう。



 「始まる前に1枚一緒に撮影良いですか?」


 「あ、じゃぁコスしてない私が撮りますよ。」


 邪魔にならないよう机の内側に全員が入り、他のサークルの迷惑にならないように集まると千奈はした。


 「3、2、1」かしゃしゃしゃしゃ……


 多少被写体が動いても全員が良い具合で揃ってる場面が取れているはずだ。そう思っての連写である。



 「ありがとうございます。これ、cureに載せて良いですか?」

 

 「隣のサークルさんと、みたいな感じだったら良いですよ。」


 

 「くそう、俺達も着替えてれば一緒に撮影出来たかな。」

 「ジャンル違うし難しいだろ。でも見本ROMを交換で貰ってるんだからそれで我慢しろって。」

 なんて会話を隣のサークルの男性達がしていた。




☆ ☆ ☆


 午前10時、ついに冬の聖戦が始まる。


 「来るぞ、来るぞ。」

 大手サークル、壁へと向かう人の波が、スタッフに導かれながら民族大移動を行っていた。

 

 「五木さんの妹さんもあれらの中にいるのかな。」



 「走らないでくださーい。走っても何も変わりませんよー。」



 「最後尾はこちらではございません。」のプラカードを持ったスタッフを見かける。

 どんだけの列だよと思ったら真人は直ぐに納得。

 某えろげの原画家さんのサークル名がそこには描かれていた。


 大手サークルへの列が外に出された後、一般参加者が入ってくる時間になると人の流れは自然となってくる。


 意外にもなのかはわからないけれど、レイヤーにはある一定層の固定ファンがいる。

 友紀のサークル島周辺はコスROM島なので人自体はそれなりに集まっていた。


 幸いにしてか、友紀のサークルも両隣のサークルもそれなりに売れていた。

 知り合いが来た時だけ少し話したりもするので少し時間を要したりとかはあるものの、周辺に迷惑をかける事無く人は捌けていっていた。


 それとやはり、どこもそうなのかも知れないが、POP等は目立つのか声掛けだけよりは人が集まりやすい。


 「えー、嘘。男性だったんですか?」

 真人が開始2時間しないうちに言われたセリフNo1であった。


 


☆ ☆ ☆


 「そろそろ12時になるから広場に行って来て良い?」


 「あ、うん。行きたい大手は回れたから後は任せて。」

 たった2時間の間に大手サークルを3つもこなした千奈はある意味猛者である。


 「仙台だと夢メッセとかくらいしか行けなかったから、ショップに並ばないと手に入らなかったからね。」

 メロンとか虎とかはあるけれど、即売会でしか手に入らないものは中々出回らない。

 ペーパーとかは現地でしか手に入らず、オークションだと高値になってしまうので簡単には手が出ない。

 千奈はこれみよがしに計画を立て、回ってきたというわけである。



 14時には戻るようにすると言って真人と友紀はスペースを離れていった。

 これまで順調に来ている。

 

 

 12時20分頃、広場の一角で集まる昨年と同じメンバー。

 今年はそこに友紀が加わっている。

 3組のカップル・夫婦であるため、大きなトラブルはない。

 それとコスプレのカップリングは別問題だけれど。


 「いやー、今日も大量ですわ。しかしあんたら、夫婦の私達以上に絡んでない?」

 指摘された白米とみゅいみゅいはここが広場だという事も忘れ際どいポーズで撮影されていた。

 しかしそれは煽ったあんたが言う事か?と真人は思っていた。

 その煽りは真人と友紀にも及んだわけだけれど。

 友紀と真理恵の二人の鏡音リン・レンの絡みも半端なかったけどなと真人は思っていた。

 


 1時間もした頃、一人のレイヤーを中心に円が出来ており、慣れてない様子ではあるが撮影されているテトを発見した。


 ひと段落したころ……そのテトから声を掛けらる真人。


 「たすけてー。」

 

 「まさか……千奈か。」


 「いえす!」

 スペースは?とかなぜお前までコスを?とか言いたい事のある真人だったけれど。


 真人は真理恵の方を向くと、さっと目線を逸らされる。


 「焚きつけたのはあんたか。」


 「ひゅーひゅーひゅー」

 鳴らない口笛で誤魔化す真理恵。


 「というわけで、全員揃ったしもう一回撮ろう。」


 それから全員で、ペアを変えて色々撮影していった。

 兄が妹を撮影するのはまだ良い。

 兄と妹での絡みは……


 「な、なんか兄妹なのに照れるな。」

 「ば、ばっかじゃないの。」


 メイク越しに千奈が赤面しているのがわかったけれど真人は何も言わない。

 「大きくなったな。」

 「そりゃもうあの頃の私じゃないし?」


 ふと視線を前に向けると、少しむすーっと頬を膨らませた友紀の姿が目に入っていた。

 (妹相手なのに、そんなに不機嫌にならないでー)


 その後再び真人は友紀と濃厚な絡みをする事で事なきを得た。

 女の子は複雑だと真人はしみじみと呟いていた。



 

☆ ☆ ☆


 他のレイヤーやカメコの人達からの撮影依頼にも答え、数々名刺交換をしている。

 そうこうしているうちに14時に達しそうなので一度スペースに戻る事にした。


 「お、妹ちゃんもレイヤーだったんじゃないですか。」

 隣のお姉さんも広場から戻ってきていたのか、早速声を掛けられた。


 「今日デビューですけどね。」


 

 千奈はお隣さんと数枚写真を撮り合っていた。


 15時に差し掛かろうとした頃。

 そろそろ順番に着替えに行った方が良いかなと、真人が思い始めた頃にそれは現れた。



――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。


 そろそろ来ますよ。

 

 そしてなんと千奈までコスプレデビュー。

 真理恵の口車に乗せられレイヤーが増えていく。


  

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