第76話 抱きしめるとさば折りになる魔法使い

 現在は入れ替わりで真人の後に友紀が入浴中。


 その間に真人は友紀へ渡すクリスマスプレゼントを荷物の中から取り出す。


 大きな包みと小さな包み。それぞれ中身は……



 やがて風呂場の方向から音が聞こえるのが真人の耳に入った。

 がさがさっと包みを後ろ手に隠す。

 風呂上りでいきなり渡す気であろうか。


 漫画であれば友紀の身体から湯気が見えそうな程温まったのが真人にも見える。

 設定温度は40度のため程よい湯温のためゆったりと入れる。

 白い肌の友紀であればおさるさんのように赤くなるのも仕方がない。

 照れているわけではないのに見える肌部分は赤くなっていた。


 「そ、そんなに見られると照れてしまうのですが……」

 やはり赤いのには照れも含まれていた。


 「ポ〇リでも飲む?」


 「いただきます。」

 友紀は水分補給としてミニのペットボトルのポカリを飲み干した。

 その姿は湯上り美人といった感じでちょっと妖艶な湯上り美少女という感じだった。

 真人がごくっと唾を飲み込む。



 「落ち着いたところで、改めてメリークリスマス!」

 大きな袋と小さな袋を真人は友紀に手渡した。


 「あぁあ、ありがとうございます。」


 「いえいえ、こちらこそ一緒の時は家事を大方お任せしてるから、ありがとうございます。そのお礼も兼ねて大きいのと小さいのと2個なので。」

 言ってる真人の方が照れてしどろもどろになって顔が赤くなっている。

 エアコンは入れてはいるけれど設定温度は22度となっておりそこまで暑くはない。


 「じゃぁ大きい方から……ってここ、こ、これはぁぁぁあっ」

 東〇の十六夜〇夜フィギュア(塗装済)であった。

 知り合いのツテを総動員して非売品ではあったが一つ譲って貰えたのをこうしてプレゼント用に包装したのである。

 知り合いの知り合いはお知り合いというのもあながち間違いではない、正解でもないけれど。


 「はぁぁぁさ〇やたん……」

 本来〇〇たんと呼ばれるようなキャラではないのだけれど、可愛く仕上がっているため思わず漏れてしまうのも仕方がないのである。

 

 

 最近友紀が大胆になってきている事の他に、キャラ崩壊も追加されてきているような気がする真人であった。

 

 「友紀さん、ちょっとく……表情が面白くなってますよ。」


 その言葉でハッと我に返る友紀だったが時すでに遅し、涎を垂らしたりとかはないけれど、とても女子がするような表情ではなかった。


 「いぃぃ今のは忘れてください。」


 「脳内のシャッターは降りちゃいましたし、脳内のHDDとメモリーは複数に保存されました。」


 「むー。今度くすぐりの刑です。」

 それはそれで微笑ましい光景になるのは目に見えているのだけれど二人共気付いていない。

 真人は少し意識してしまい照れている。


 「じゃぁこっちも開けますね。」


 小さい袋から出てきたのは……


 薄い桃色の可愛いエプロンだった。

 

 「あぁ、ありがとうございます。」


 フィギュアの時とはまた違った意味で友紀は照れて赤くなっていた。


 真人は分かっているだろうか。

 エプロンをプレゼントするという事は、越谷家の台所は友紀に任せた!と言っている事と同意だという事に。

 それはつまり……嫁はやっぱり貴女しかいないのでこのままずっといてくださいと言っているのと同意だという事に。



 「試着しても良いですか?」


 「どうぞ!」

 真人の返事は即答でかつ大きかった。まさか今着て貰えるとは思っていなかった事と他に思惑もあった。



 「どうですか?」

 正面に立って一度見せると、その場でくるりと一回転してみせた。

 エプロンなのだからスカートのようにふわっとするわけはないのだが、ふわっとしたように幻視して見える。

 風呂上りのパジャマの上にエプロン……何かエロティカ的な……そう、芸術的なのだ。

 性的興奮を起こすような色情的なエロティシズムとは違う。なんかこう美的感覚的な……そう、女神的なものを感じていた真人であった。


 

 当然そんな感覚を受けた真人は呆然として動けなかった。あまりにも似合い過ぎていて驚愕で動けなかった。

 

 「とても似合っていて可愛いです。思わず抱きしめたく……」


 「いえ、もう抱きしめられてます。」

 真人はいつの間にかエプロン姿の友紀に抱き付き両手は背中で優しくホールドされていた。


 「あ……あまりにも似合ってたのでつい……風呂上がりの良い匂いもするし?」



 「もーそういうのはだめです。というか嗅がないでください。へ、変態です。」


 真人はビクっとして抱く力が強くなり、「きゃっ」と言い友紀は驚いた。


 「ま、真人さん……それ、エドモ〇ド本田のサバ〇リみたいになってます。ちょっと痛いです。」

 (でも少しだけ気持ちが高ぶってきたのはなぜ……お腹のあたりが少し熱い……)

 友紀の内心は本人にしかわからないけれど、真人は痛くしてしまった事に申し訳なく思い抱きしめる手を緩めて外してしまう。


 友紀の紅潮は風呂上りのものか、照れと恥ずかしさのものか、もうどちらとも形容しがたいものとなっている。


 裸エプロンに変わる新たなジャンルとしてパジャマエプロンという境地に目覚めてしまいそうな真人は、名残惜しいとおもいつつも友紀を解放した。

 

 「真人さんはパジャマエプロンに興奮するような変態さんだったのですね。」

 ぐさっと何かが突き刺さる真人はorzとなった。


 「もー冗談ですよ、冗談。そんなに落ち込まないでください。可愛いんですからもー。」

 しゃがんでなでりこなでりこと真人のあたまを撫でる友紀。



 「気を取り直してですね。私からもあるんですよクリスマスプレゼント。」


 パジャマエプロンは継続中で、再びテーブルについた真人と友紀。

 そこそこ大きな箱をテーブルの上に置かれていた。

 


 「めりーくりすます?」

 顔を少し斜めに傾げて友紀はプレゼントを手渡した。

 「なぜ疑問形?」

 思わず突っ込む真人だったが、少しあざと可愛いと思ってしまったのでそれはそれで良いかとそれ以上は追撃しなかった。


 「開けるよ。」

 テープから綺麗に剥がし、丁寧に包装紙を解いていく。

 包装紙が解けると箱の側が登場する。メーカー名は良くわからない。


 箱を開けると……


 「あ、鞄。」


 「すぐ新年ですし、差し出がましいかも知れませんが今使われてるのが結構年季が入ってるようなので。」

 真人の今使ってる鞄はかれこれ7~8年にはなる。結構くたびれてきているのが素人目でもわかる程には劣化していた。

 今使っているものと同じくらいの大きさなので問題なく移設も可能。


 「ありがとう友紀さん。そろそろ買い替えようと思って全然変えてなかったから凄く嬉しい。」


 「よ、喜んで貰えて私も嬉しい……よ?」

 ここにきて以前話したタメ口OKが発動していた。


 「早速次会社行く時から使うね。」


 真人は友紀の抱き枕にされその日は眠った。

 そして翌朝2人の枕元にはオーバーニーソに一杯に詰められたお菓子が置いてあった。

 決して千奈や三依がこっそり侵入したとかではなく、あらかじめ詰めておいたのを夜中こっそり真人が置いただけである。

 子供達なら記憶に新しいはずだ。いつの間にか用意していた靴下の中にお菓子が詰め込まれていた事を。

 プレゼントと一緒に置かれていた事を。サンタさんは大変なのである。

 抱き枕にされていた真人サンタはそれはもう大変だったのである。


 



 翌平日、新しい鞄で出社した真人は、後輩・山梨に揶揄われたのは言うまでもない。

 「それ、彼女さんからのプレゼントっすか?そうですよね、そうじゃないはずがないですよね。」


 「う、うるせーよ。お前だってそのネクタイとベルト新しいじゃねーか。奥さんと娘さん合同のプレゼントじゃねーのかよ。」

 真人は真人で言い返していた。2個だけに倍返しだった。


 2人共照れてる様子は、端から見ると男同士何か違うものに見られていても不思議はなかった。

 一部女子社員の間で何か盛り上がっていた。

 山梨が既婚者である事は知られているし、真人に彼女がいる事も知られているにも関わらず。


 どうやら真人の勤める会社には腐った女子社員が数名いるようだった。


――――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。

 なんでしょうねこの甘々は。

 暴露宴とのギャップよ。

 暴露宴も73話で20万6千文字いきましたし。

 MAXも現状75話で25万文字ですし。

 個人的にはこちらのMAXの読者が増えて欲しいんですが中々うまくはいきませんね。

 30歳の魔法使いカップルに需要がないのか、単に表現方法が悪いのか。

 

 こういう恋愛したかったというのが駄々洩れなのか。ん?


 真人の勤める会社には実は結構ヲタが隠れている模様です。

 今頃明らかになる新事実。

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