第072話 「まこと」と言えば志〇雄か木星の人を連想します。

 真人が目を覚ますとその先には包帯を巻いたミイラ女……友紀の心配そうな表情で見つめる姿だった。

 顔も首も腕も胸も肩も……白い包帯で覆われている。

 正直どうやって一人で巻いたのか不思議に感じるが今の真人にはそこまで思考する事は出来なかった。


 頭に伝わる感覚というか感触もまた不思議であり、ズボンやスカートの感覚とは違う。

 童貞の真人でもわかる。これは肌の温もりだという事が。


 正確には肌だけではないのだが、このミイラ姿を見れば自ずと理解出来る。

 肌と包帯の感触であり感覚である。包帯の感覚ってなんだよと真人は内心思っているのだが。


 髪の毛を絡む包帯で太腿の肌露出具合が増しているのだが、今それを確認する術はない。

 絡んだ毛で頭皮が少し痛みを感じ、逃避したくもあるのだが真人は太腿の感触と心配そうな友紀の表情からそれは赦されない。


 見方を変えればなんて羨ましい奴というこの状況ではあるのだが、嬉しさとヘタレさと心地よさとが同居しいつも感じている、真人と友紀の一歩踏み出しきれないもどかしさを物語っていた。


 「あの……大丈夫ですか?」


 ようやく声を発する。その声は不安と心配が入り混じったものであり、真人の心にずぎゅんと響いた。

 「だ、大丈夫。友紀さんの恰好に驚いて、驚いてその……ちょっと興奮してわけわからなくなって、オーバーヒートしちゃったみたい。」

 既に全裸も見たことがあるというのになんとも情けない話ではあるのだが、童貞には全裸より着エロの方が驚愕や衝撃は大きいのかもしれない。

 それでも中高生ではあるまいし、童貞だからといってその程度で……と三依には揶揄われてしまうだろう。


 今の真人の言葉で自分の置かれている状況を再認識した友紀も真っ赤になって固まってしまう。

 もうだれが収集をつけてくれるのか、第三者がこの場には必要だった。


 仰向けに膝枕ならぬ腿枕をしている真人の視線の先には友紀の顔がある。

 睫毛が綺麗だなとか、鼻筋がどうとか、唇がリップで良い感じに濡れているとか……思うところなのだろうけど。

 明治幕末の漫画にあったあの包帯ぐるぐる男よろしく、包帯率が高くそこまでは見て取れない。

 声を掛けてきた時なぜ不安や心配が伝わったのかといえば……愛しかない。


 志々雄真〇の女性版かと思わせるミイラ女・友紀だった。


 と、うまくまとめられる程真人も朴念仁ではなく、見えちゃっているのだ。

 それを指摘すれば友紀はきっと今以上に真っ赤になって、石化してしまう。

 でもこのまま黙っていると真人は色々反応……しているのだが、それを悟られているかといえばまだ悟られてはいない。

 童貞は反応は早いのだ、統計は取られていないけれど。


 でも友紀の視線があっちいったりこっちいったりしてるのを真人は気付く。

 微かに見える顔の肌は真っ赤である。包帯巻き過ぎで皮膚が圧迫されての事ではない。


 真人が反応する、反応するからには何かの理由がある、太腿の感触だけでというわけではなさそう、じゃぁ一体なぜ?というのが現状の友紀の心情である。

 そのため目線が真人の顔とソコを行ったり来たり。

 友紀はむっつりなのだが、例の件でその素質は深層に押し込まれていた。

 

 上層から下層に沈殿する心の泥を掻き出したのは、真人とのこの約1年の積み重ねと幼少時過ごした信頼によるもの。

 不純物が減ってくれば深層へと浮上してくるもの。


 夏コミの事で再び心が揺れ動いてはいたけれど、一度浮上しかけたモノは水面ぎりぎりにまで達していた。

 その表れがこのミイラ姿でもあるのだけれど。


 それは意識をしての事なのかどうかは本人にもわかっていない。

 ただ、真人は純粋に反応していた。

 スーツのズボンでもバレるものはバレます。


 わかっていて言わない方が、黙っていた事に関して嫌がられるに違いない。

 そう考えた真人は思い切って、キリストの踏み絵をするかのように言葉に出した。


 「あの、友紀さん。見えてます、ぽっち。」


 「ひゃいっ。み、みしぇてるんです……ってそんなわけありません。」

 包帯まで赤くなったように見えた真人だったが、友紀のその慌てぶりは中高生のようだった。

 そして何を思ったのか友紀は次の行動に移る。


 「そ、そんなえっちなこと言う口は……」


 自らの太腿に乗る真人の頭と顎を両手で抑えて、友紀は自らの顔を沈めていった。

 当然その先には……


 「こうして塞いでくれま……ちゅ」


 「す」と唇が重なった音が合わさり絶妙な効果音となっていた。


 段々と積極的に行動的になってくる友紀に、驚きとエロスと親しみと愛情と……色々なものを感じる真人であった。

 この時の友紀からは、完全にではないけれど少し舌が挿し込まれてきていたのだ。

 大人の階段を少し昇る、君はまだ処女シンデレラさ。なんてアホみたいなフレーズが浮かぶくらいにはパニックになってる真人。



 これは初えっちの時は自分からリードするより、自分が受けになってしまいそうだな……なんて考えも過った。

 教えて・たすけてマリえも~ん、もしくは中身のみよりえもん~んと心の中で叫ばずにはいられなかった。


 「受講料は1000万萌えになります。」と、心の中の彼女が言った気がした。



 1分以上は唇が繋がったままだろうか、離すと透明の糸が再び架け橋を作っており、それが妙にエロスを感じさせた。

 童顔少女に見える友紀だからこそ、その妖艶さが余計にエロく感じてしまう。


 「そ、そろそろ起きますか?まだスーツのままですしおすし。」


 語尾から友紀が平常心に戻りつつあるのが窺える。

 火を消しているので料理も冷めてしまう、二人の愛情は冷めそうもないけれど。 



 「そういえば、志々雄みたいになるなら、名前の【まこと】繋がりで俺がやるべきだったんじゃ……」


 「それは言わないお約束です。」

 ぷんぷんとばかりに頬を膨らませる友紀は小動物……どんぐりを頬張る子リスみたいで愛らしく見えた。


 「それなら名前つながりでセーラー服美少女戦士の木星の人をやるべきです。」

 木野まことね。確かにまこと繋がりではある。

 友紀はどうやら真人を女装させたいらしい。今更だが、真人が男性コスをしたのはコスカラの時しかしていない事を、誰も気付いていない。



 そしてこのミイラ女騒動ではもう一つ事件が起こる。


 立ち上がる時、真人はふらつき……友紀を下敷きに倒れ込んでしまう。


 「ふがふっふー。」

 真人が何を行っているのかわからない。

 某国民的一家団欒アニメのあのキャラの言葉であれば「詰まっちゃった。」であるが。


 倒れ込んだだけのはずなのに。

 なぜか真人の顔にも包帯が巻き付きその先には友紀の柔肌……

 さきほど見えちゃったぽっちも含めて真人の顔で受け止めていた。

 不可抗力ではあるけれど、正確には真人が顔を押し付けていた。


 「にゃにゅにょっ」(なにをっ)

 友紀の驚きの声が発せられるが、真人が謝罪の言葉を述べたり逃げようと、抜けようと顔を動かす度に友紀の肌には吐息と髪と顔の肌感触が伝わりとてもいやらしくなってしまう。

 有体に言えば感じてきてしまう。


 


 これで一線を越えないのだからこのカップルはまだ拗らせている。



 たすけてーマリえもーん。

 たすけてーみよりえもーん。


 二人が心の中で思い浮かべる救世主は同一人物なのだが、恐らく共通の知り合いの中では一番助けを求めたらあかん人物である。


 「ぐっへっへ。イベントスチルげっとー。」

 そう言いながら撮影する姿しか思い浮かばない。少し冷静になった二人は同じ事を考えていた。




―――――――――――――――――――――――――――


 後書きです。


 エロいっすか?エロくないっすか?

 これだけ触れ合ってまだ一線は超えません。

 

 手と口ではするけど本番はまだというカップル、多いかは知りませんがその手前くらいな感じです。

 友紀さんはむっつりなのです。


 あまり語ってはいませんが、コス時代も三依と百合百合しい写真が多かったのです。


 こういったところも拗らせの一つと言えるわけです。 

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