第5話 ぶるーたすお前もか

 「よし、お金持った、水分持った、汗拭きシートとタオル持った……」


 始発電車が動く前、朝4時台となれば外は物凄く寒いし辺りは暗い。

 むしろ凍えて氷像になれる自信すらある程冷えている。

 人によってはこの夜更かしをしてこのくらいの時間に寝る人もいる事だろう。

 だが俺達は違う、これからが真の戦いなのだという意思を持って臨んでいる。


 クリスマス?

 知らん、なんだそれうめーのか?

 死すれば普通に寺にある先祖代々の墓に入るだけだ、キ○スト教とケーキ屋の都合など知らん。

 もし結婚する時があるとすれば西洋式にするんだろうけど相手なんていない。

 そもそも神父と牧師の違いってわかってる人どれだけいるんだ?


 今日は12月31日、どうせ世間のぴーぽーは年越しと初詣で頭いっぱいだろうよ。

 だが俺達は違う、今日こそが聖戦なのだ、いざ聖地東京ビッグ○イトへ。


 自宅アパートを出た真人は諸々の愚痴と決心をし車へと向かった。

 とても人には見せられないヤバい車痛車に。


 始発電車には乗らずマイカーにて出発、途中で寄ったコンビニで買い物をして会場へ向かう。

 会場付近に着く頃にはそれなりの人がいるのを確認出来る。

 だが真人には伝家の宝刀と呼ぶべきものがあった。

 伝説の勇者の聖剣と盾にも等しい「サークルチケット」及び「駐車券」という免罪符が!


 真人にとっては数少ない友人というか趣味友というか、会社の後輩がいるのだが……

 行きの車とスペースの準備と最初2時間の売り子(店番)するのを条件にチケットと駐車券を譲り受けていた。

 この後輩とうのが、可愛い年下の嫁さんと3歳になる娘がおり、嫁公認でヲタ活動している。


 結婚式で見たけどとても可愛い奥さんだったのを記憶していた。

 あの仕事しててどこで見つけてくるんだと思って聞いたことのある真人だが、後輩曰く同い年の幼馴染で高校の頃から付き合ってるらしい。

 幼馴染が負けヒロインにならなかったパターンである。


 それとお互いに他に付き合ったりしたこともなければ、浮気や夜のお店にいった事がない。

 正真正銘お互いしか知らないとか、清いアピールをしていた程だ。

 うらやましいですねー、机の角に股間ぶつかればいいのにと思ってもバチはあたらない。


 っとチケットくれた後輩に当たるのはよくない。

 昔は嫁さんも売り子をしたり、スペースの手伝いしたりと色々してくれていたらしいが、妊娠を期に嫁さんは引退したらしい。

 そりゃ嫁公認になるわけだよと思った。

 でも時々嫁さんから戦利品をゲットするよう言われているようなので、2年後くらいには娘と一緒にコスプレして売り子してそうだけどなと真人は睨んでいる。


 ちなみに後輩夫婦は25歳。

 問題があるとすれば、この後輩は18禁作家であり嫁さんはともかく娘には毒になるかもしれない点だ。

 物販品の内容もだが、飢えた変態紳士淑女の檻にぶちこむのは酷だと感じる。

 言い方を変えれば英才教育オタク育成が可能ともとれるのだが。


 抑々何故後輩とコ○ケに来るほど仲良くなったかと言う話であるが。

 飲みの席で後輩が嫁さんのコスプレ写真を待ち受けにしているのを偶然見てしまい、言い訳し始めた後輩と話してるうちに意気投合。

 人付き合いの少ない俺にとっては本当に数少ない友人であり、良き後輩であり良きヲタ友にまでなった。



 真人は昔は野球をしていたが、プロに成れるわけでもなく高校に上がると同時にヲタにジョブチェンジし全力投球したのだ。


 たまに会社のおっさん連中と地域の草野球はするけれど。


 「真人先輩、準備終わりましたしちょっと挨拶周りいってきますね。」

 「おう、俺のメインはコスプレスペースだからな。別に昼くらいまでは売り子に専念するさ。」

 

 去年別の知り合いと一緒に西4階に行った時にとある衝撃を覚えたのだ。

 島(サークルの真ん中のこと)で売り子をしてるコスプレをしている人を見てる分には然程気にも留めてなかったんだけど。


 昨年コスプレスペースで見た彼ら彼女らの撮影箇所を見て凄い熱気に当てられたのだ。

 クオリティや再現度は当然人によってまちまちだが、そんな単純な言葉では表しきれないモノというかエネルギーというか情熱に感激を覚えたのだった。

 それと、その中でも一人だけ気になるレイヤーさんがいた。

 数年前の作品にも関わらず真人にとってドストライクのコスプレをしていたレイヤーさんがいたのだ。


 そのレイヤーさんから貰った名刺に書かれていたホームページによると、今冬もまた参加するということなので今日は楽しみだった。

 もっとも発見できるかはわからないし、いちカメコの事など覚えてないだろうけど。

 また撮影させてもらいたいし、軽い挨拶くらいしたいくらいの下心は持っていた。


 そして今冬はちょっと違う。

 齢30にしてやっちまった、いや正確にはやっちまう。

 魔法使いになった記念とでも言おうか。


 それは……「俺はこの冬コスプレデビューする!」


 荷物が多く、マイカーで参加したのはそのためである。

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