第六話 槍の達人

俺と奴隷の少女は、武具屋を出た。出たところでなにやら大人数の王宮にいた兵士たちが詰め寄せてきた。


「陛下から貴方に至急、王宮に来るようにとの命令が下っております」


とのことだ。まあ、今の俺はまだ王宮の支援から外れてるわけではないし、まだ自立していない。故に、断る意味もないと思って行くことにした。


「ああ、わかった。今すぐ行く」


「それと、隣の子も御一緒願います」


少女は、ぎゅっと俺の手を握ってきた。なにか、いけない予感でもしたかのだろうか?そして、王宮に着いて例の大広間に到着する。


大広間にはすでに三人の勇者が並んでいた。もう準備は整っているらしい。


「勇者とあろう者が、まさか、奴隷を連れてくるとはね……」


猪野がいつもの冷静な口調で俺を睨みつけてくる。奴隷を連れてきた……。それはつまり、勇者としての自覚が無いと思われても仕方がないことだった。


でも、彼女は俺が一生守ると誓った。さらにこれからも、戦力は奴隷じゃなくても増強させるつもりではあった。


「まぁな。だが、こいつをこき使ってるわけじゃない。ただの戦力不足を補うためだ」


「本当かい?君なら、奴隷は奴隷らしくとか、言いそうだけどね」


「俺をなんだと思ってるんだ」


俺と猪野の会話をまじまじと見つめていた咲が、いきなり大声をあげた。


「なっ……!?その子、めちゃくちゃ美人さんでは!?いかん、俺の理性が飛びそうだ……。そうだ、坂野。その子を――」


俺にくれないかとでも言おうとしたので、俺は武具屋で少女と同じものを買って装備してきた。


黒装束の例のあれの性能を信じ、飛躍的に突進するが如く走り抜ける。すると、風がビュンっと通ったような感じがして、すぐに咲に追いついた。


「あげるわけねぇだろ」


「ひぃっ……!?」


咲はその場で倒れ込む。ここで、空いていたはずの玉座がきしっと歪んだ音をたてて揺れた。どうやら、王様が到着したようだ。


「そこで雑談はやめたまえ。も呼んだということは、それなりに重大なことだからだ」


国王は冷静に俺たちの心境を覗き込むかのように話し始める。


「魔王軍がすぐ、攻め寄せてくる」


俺たち勇者は愕然とした。今の俺たちのレベルでは、到底太刀打ちは不可能。それを見据えて、魔王軍は今が攻め時だと思ったのだろう。


「勇者が一人でも欠ければ魔王軍を撃退、もしくは全滅させることは危うい。だからこそ、そなたを呼んだのだ。無能勇者」


俺をじっと見つめてくる。俺は頷き、国王の話が続く。


の報告はまだ届いていない。だから、おそらくはその供物となる幹部を送り込んでくるはずだ。攻められる予定の地は――アナザー」


アナザーというのは、王都の次に都市化した街らしい。ブリュンヒルデと魔王軍の領土のちょうど境にあるものだから、すぐに目をつけられたのだろう。


アナザーという街に行く手段はライドモンスターと呼ばれる魔物の一種である、スカルドラゴンと呼ばれる龍に乗ることらしい。


スカルドラゴンというのは先代の勇者がドラゴンを倒したが、そのドラゴンがなぜかスケルトンのように骨だけで復活し、人間に懐いたことがライドモンスターと呼ばれるきっかけとなった魔物。


「では、行くとしよう」


猪野はどこで買ったのかわからないメガネを指で持ち上げて綺麗に整え、リーダーのように言う。まあ、こいつがリーダーなんだがな。


スカルドラゴンによる移動から数時間が経過する。あまりにも早い行動力に少々驚かされる。


俺と同じスカルドラゴンに乗り、バイクに乗るが如く手を回して俺に抱きついてた少女も感嘆を漏らしている。


だが――。すでに、焼け野原となっていた。


「どうやら、勇者一行が到着したようです」


アナザーの王宮にある傷一つ付いていない玉座に座り、ほうと聞く耳を持っている男――キャンサーは、玉座から起き上がる。


「よし。街に散らばっている兵士たちをこの王宮に集めよ。占領したばかりなのに、取られるわけにはいかない。我直々に、やつらを倒してこよう」


「もし、負けた時は……」


「この俺が、負ける?なにを寝ぼけたことを言っておるか」


この王宮にいたはずの領主を殺したキャンサーはその者が持っていた王者のマントを着用し、王宮を出て行った。


「ひどい有様だな……」


咲が珍しく沈んでいる。こういう時こそポジティブに行こうぜのようなことを言いそうな性格なのに。


咲はこういうことには敏感なのかもしれない。


「では、先へ進むとしましょう。手強い相手がいるかもしれません」


それと対象的に猪野は、好戦的だ。ちょっと危ないかもしれない。前までは咲が危なそうだったのに、戦うにつれて楽しくなってきたのだろう。


そうだ、と思い出し、俺は隣で手を握り、一緒に歩く奴隷の少女に質問する。


「なぁ。お前は、解呪系の魔法とか、覚えてたりする?」


「……うん」


小さく頷いてる。どうやら、治癒師は解呪系も使えるらしい。ならばと思い、俺は彼女になにか俺の体に入ってくると感じた時に合図するから、解呪してくれと頼んだ。


歩いているうちに、だんだんと大きな建物が見えてきた。おそらく、この街の王宮だろう。


その目の前に、マントを着た何者かが、立っていた。


「ふふふ。よく来てくれた、勇者一行。我の名は魔王軍幹部、キャンサーだ」


その名を耳にした時、ゾッとした。なにか圧力をかけられたような感じだった。キャンサーと名乗った男はマントを外し、空へとマントは舞っていく。


そして、手に携えていたを片手で垂直に構えている。


「我は槍の達人とも呼ばれた男だ。我が槍術に、勝る者無し!」


キャンサーは、槍になにかを纏わせて、こちらへ向かってきた。

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