第五話 奴隷治癒師

俺は、考えていた。てか、治癒師なら戦闘経験はあっても、戦闘能力は高くないのでは?と。


治癒師の試運転ならば、俺が戦闘して、回復してもらえればわかることだろうと思い、奴隷商人に提案する。


「治癒師ならば、俺が戦闘をするのが普通ということを忘れていました」


「オッホッホー。いつお気づきになるのかと、待っていましたよ。無能勇者の実力、見せてくださいなぁ」


俺は、少女の肩に手を置いて、まだ行きたくないと震わせているところを、俺が支える。


「俺が間違っていた。君は、戦わなくていい。ここから、見守っていてくれ。俺が合図をしたら、即、回復魔法を」


「うん」


そして、激闘がはじまる。猛獣の部屋に入るなり、いきなり襲われたので、危なっと思って回避する。


(こいつぁ回避に徹底した方が良さそうだな……)


魔物が疲れるところをひたすら待つ。魔物は、四足歩行で、小さな翼を持ち、知りには先端が二つに別れた尻尾を持ち、口には鋭いキバが生えている。


こいつの名は、マンティコアというらしい。幻獣に近い存在だとか。余りにも暴れ回るので、こいつのスタミナ以上だと驚かされる。


(ちぇっ……。らちがあかねぇ!)


そして、俺は遠くへ離れて攻撃魔法を発動させる準備に入る。


「主より賜りし神秘の力よ――ライデン!」


マンティコアの頭上に魔法陣が出現する。途端、一気に小さな雷がマンティコアを襲う――が、無傷だった。


「言い忘れておったが、そいつには魔法耐性LvMAXのスキルがあるから、魔法は効かんぞぉ〜」


「はぁーーー!?先に言えよ!」


半分呆れた口調でそう言って、反撃に入るマンティコアの突進をかわす。マンティコアに魔法が効かないとなれば、属性攻撃も効かないのか……?と、考え込む。


なら、通常攻撃でなんとかするしか――。


腰より剣を引き抜く。そして、光輝く星々が剣全体を包み込み――。


「セイクリッドソード!!」


縦に振り下ろされた剣より、巨大な衝撃波が競技場の中心を襲い、遠くにいるマンティコアの顔面に直撃した。


「グアアア」


と、断末魔のような雄叫びをあげたマンティコアは、最後の力を振り絞って炎のブレスを、俺に向かって放ってくる。


待てよ、治癒師の試運転なら、ここは受けないと――。直撃した。炎だけあって、とても熱いし、痛い。


「回復!」


少女は無言で頷き、ブツブツと魔法を唱えはじめた。すると、体全体を暖かい緑が包み込み、回復が完了する。


さっきまで感じていた強烈な痛みもなくなり、万全だ。こりゃあ、かなり良質だと、買う奴隷を彼女に決める。


「奴隷商人!もう試運転は終了だ!マンティコアに鎖をやってくれ」


「鎖などやらずとも、彼は静かになりますよォ。オッホッホー!その場で制止なさい!」


主の命令と共に、首に着いていた輪っかが、紫に強く光る。次の瞬間、マンティコアは大人しくなり、元の位置へと戻った。


これが、奴隷を押さえつけるための輪っかの力。なんとも恐ろしいものだ。


「先程の数あれば足りますよ。ですが、二人目は足りませんねぇ」


「そうか。彼女で今のところは事足りる。ありがとう」


「礼には及びませんよォ」


こうして、俺は新たな仲間を迎え入れて大浴場へと向かった。


女の子を一人にしては駄目だと思い、俺は彼女を男湯に連れていこうとするが、いやいやと首を振る。なので、女湯へ連れていく。


急に大の大人で、しかも男である俺が女湯へ入ろうとしたわけだから、受付の人やお客さんに桶を投げられるが、はっと俺の顔を見るなりそれを辞めて謝る。


(無能勇者だし、気を使わなくてもいいのに)


無言の風呂タイムがはじまった。散々に汚されていた彼女の体を俺は丁寧に洗ってあげた。すると、ピカピカになって今までの汚れが嘘のようだ。


「どうして……あなたは……そこまで……するの?」


無垢な眼差しが、俺を貫く。少女の体を洗ったあと、俺は自分の体を洗いながら答える。


「そうだなぁ。お前が、使える奴隷だから、かな?」


「……そう」


納得してくれたのだろうか?わからない。それでも、俺は彼女の心の支えになれればいいなと、それを目標にする。


一方で、魔王軍と呼ばれる悪魔の軍隊は勇者召喚に成功したとの報告を受けており、すぐに対抗せねばなるまいと、していた。


連年による魔王の戦闘は、魔王の体に大きく影響が出始めており、今となっては魔王の体は封印され、眠っている。


『勇者の召喚に人間共が成功した――となれば、すぐに勇者が力をつけるまえに攻めるのが基本だと、思うのだがね』


『それは、私も同意見だ――。では、幹部の一人を、あちらへ送るしかあるまい』


『戦闘データを確保する必要があるからねぇ。それは、肝心だと思うよ』


魔王軍が動き始めようとしていた――。


そうとも知らず、勇者たちはそれぞれ生活を楽しんでいた。エルザに至っては、今まで住んでいたところとは違う服装に興味を示し、色々と服屋で買っている。


咲はと言えば、武器にさらなる磨きをかけるため、素材集めに専念している。


猪野は、まだまだ足りないと言い、この世界の情報収集をするために、休息期間中に至るところまで行き、冒険している。


奴隷を買い、体を洗ってあげた少年、坂野守は、少女の装備を整えるために奴隷商へ行く前と同じ武具屋に再び来ていた。


「おっ、お前さんかい」


「お邪魔するぞ」


「……」


少女は、人に対するスランプがあるのか、見知らぬ人にはいつも無口だ。ま、見知らぬ人しか今のところいないみたいだが。


「おいおい。そういう趣味があんのか?」


なにやら意味深な表現をする言い方に対して、俺は首を横に降り否定する。


「違う違う!こいつは戦力増強のために奴隷商人より買ってきた奴隷で……」


「金は、あるのか?」


「あとで返す」


「いいだろう」


こうして、あとで払うことを約束して少女の装備を整えることにする。治癒師であるため、身軽に動けるように軽い装備がいいだろうと思い、布のフードの着いた黒装束の装備を見つける。


「おっちゃん。この装備、性能は?」


「良い奴に目をつけたな。さすがだぜ。そいつは、かなり耐久性に優れているのと――敏捷性も上がる高品質だ。それなりに、根を張るぞ?」


「余裕だ」


俺たちは笑い合い、少女と見合ったサイズを用意してもらう。ほんとうに、この人は面白い人だ。一生働いてもらいたいぐらいだと、つくづく思う。


「よし、行こうか」


お邪魔しましたーと軽くお礼を言い、少女と外へ出る。選んだ装備は、あの黒装束の服と短剣、そして、スニーカーっぽいやつだ。

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