第四話 奴隷
とても悔しかった。俺の実力が、足りなかったわけでもない。力がないわけでもない。誰かの干渉によるもので、無能と呼ばれはじめたことが、悔しい。
(こっから先、どうしたら……)
他の勇者たちは王宮に呼ばれたが、俺は勇者という称号を剥奪され、無能勇者を変わりに得た身である。故に、行く意味などなかった。
ただ、ステータス・プレートの剥奪をされなかったことが幸いだ。それがなければ、魔物との戦闘もできない。
先日のゴブリンたちとの戦闘で経験値を獲得したのか、少しLvが上がっていた。Lv5に。しかし、スキルLvは上がっていなかったので、どうしたものかと悩んでいる。
次に、やるべき事を考えていた時、ふと、窓際を見ているとすぐ近くでなにやら物騒なテントが張っている。
「あれは、なんだ……?」
凝視していると、そのテントから一人の男性と、首になにかを着けた女の子が出て行った。
(まさか、奴隷商か……?)
調べたことによると、たしかこの世界では奴隷商は一般的な商売の1種で、中でも、テント張りで売られている奴隷はかなり価値が高いとかなんとか。
奴隷……か。買ってみるのもありかもな。
俺は早速、単独行動を開始した。今の俺の状況に置いて単独行動は危険極まりないのだが、戦力増強のためには必須だった。
彼はしかも、奴隷商を見つけていなければこれから先、単独行動するつもりだった。
クエスト貼り紙が大量に貼られている黒板や、受付嬢のいる建物――冒険者ギルドに来た俺は、効率かつ大量に稼げそうなクエストを探していた。
「うーむ……。ドラゴンの討伐か……。結構稼げるが、果たして今の俺に倒せるだろうか?」
たったLv5の俺では到底太刀打ちできないと思い、却下。日本では、ドラゴンは伝説上の生物で最強種と謳われていることもあり、この世界でも同じようであれば無論、勝ち目はない。
次に、一番端にあった墓標の整理をしてほしいというクエストを見つけた。たしか、俺のスキルにはセイクリッドターンアンデッドがあった気がする。
住み着いてるゾンビたちの浄化なら、俺に限るだろう。
「すみません、このクエスト受けたいんですが……」
「あ、あなたは!?コホン。失礼、取り乱した。これで完了です。頑張って」
勇者である――今は、違うけど。俺に対して敬語を使わず、さらには長々と話たくないと思わせるような正確かつハイスピードで、受付を済ませる。
(はぁ……。早く、無能勇者の烙印を解除するために頑張らねば……)
俺は浄化をしまくり、無事にクエストが終了した。今回は、スキルを発動する事ができたらしい。いったい、なにが違うんだ?と思わず首を傾げてしまう。
そして、何日かクエストをクリアしまくって金を稼ぎ、十分な稼ぎを得た。
(これぐらいあれば、大丈夫だろう)
この前見えたテント張りの奴隷商へ向かう。その途中、どうやら任務より帰還した勇者たちの姿があった。
今度はゴブリンキングに勝利したらしい。報告したあと、多額の報酬を受け取ったとか。
この俺は、自給自足しているというのに……!!そして、目的地へと辿り着いた。中に入ると、薄暗い空気が漂っていた。
「おやおや。珍しいお客さんが……」
暗闇の向こうより現れたのは、松明を持った小太りした顔の丸い奇怪な老人だった。
「ここは、奴隷商ですか?」
「いかにも。貴方様ともあろう方が、奴隷商に手を出すとは……。うんうん。実に、興味深いねぇ……」
変な口調だが、それにツッコンでいるとキリがないので話を進める。
「良質な奴隷が欲しいです。治癒師となれる奴隷と、支援魔法を操れる奴隷が……」
「いいでしょう。ただし、値を張りますよォ〜?」
「このぐらいあれば、足りるでしょう?」
ザラザラと、巾着のような形をした袋をポッケより取り出す。装備を買ったりしていたこともあり、当時より少し少ないが。
「おっほーー!がっぽりですなぁ。さすがは、勇者様で」
「いいえ。自分は、無能勇者です」
そうでしたかと、深々頭を下げる男。そして、男に奥へ連れて行かれ、そこで思わぬ光景を目にする。
散々調教と称して痛めつけられたのか、手痛い傷を大量に受けた女の子たちが、あちこちに牢屋内に閉じ込められていた。
「治癒師の才能のある者ならば……。そうですねぇ。あの女なら、どうでしょう?」
向こう側に居るずっと蹲るエルフの姿があった。華奢な体つきで、しかし、どこか悲しげな雰囲気を漂わせている少女の姿が。
「どれだけ使えるか、試運転よろしいでしょうか?」
「ええ。もちろん構いませんよ。地下に訓練室があるので、そこで奴隷獣と戦っていただければと」
「……奴隷獣?」
初めて聞いた。その単語は、本には載っていなかった。魔物を奴隷とする商売もあるんだなぁと、感嘆する。
「ええ。まあ、見れば分かります。おい、出て来い。貴様に、客人が現れたぞぉ」
「……」
彼女は無口だが、しかし、なにか期待を俺に寄せているような――目を光らせている感じを覚えた。
――地下室。
そこには、大型の魔物がグルルルと吠えながら獲物を待ちわびていた。強靭な鎖により、行動を制限されていたが、奴隷商人によって解放され、暴れ回っている。
「これ、食われたりしませんよね?」
「その時は、その時です」
こいつ、正気か?と疑いはしたものの、訓練と考えればいいと思っていたが、少女を見ると、わなわなと体を震わせていた。
それを見た俺は、ため息をつくが落ち着かせる。
「大丈夫。俺が、危なくなったら助太刀に入る」
「……うん」
はじめて、彼女の言葉を聞いた。とても凛々としているが、しかし、とても弱々しい。
「では、イッツショータァァイム」
ついに、扉が開かれる――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます