第三話 無能勇者
次なる相手とは、普通のゴブリンの群れだった。先程のゴブリンソルジャーは、見回りかなんかだったのかと安堵する。
ゴブリンの群れはざっと数えて10体ほど。さすがに群れというだけあって、多い。
「10体はさすがに多いな……」
俺がボソッと呟くと、その声が聞こえたのか咲は、
「なにを怖気ているか。今の俺らは敵無しだぞ」
そういうこと言うから、負けるんだろうが……と、反抗したかったけど亀裂が入っては不味いと思い、俺は賛成する。
走りかける寸前、なにかが俺の体に入ってきた気がしたが、どうせ勘違いだろうと思い、頭を横に振って忘れる。
「行くぞ!」
咲が最初に一番近い位置にいるゴブリン目掛けて渾身の一撃をお見舞いする。斧は振り下ろされ、ゴブリンの頭から足まで縦にズタズタと斬り裂く。
次に猪野が動いた。片手剣を倒したゴブリンの横にいるゴブリンに向かって横切りをする。そして、斬られたゴブリンは腹を中心に横に真っ二つになる。
次にエルザが、攻撃魔法――バーンで、ゴブリンを数体次々と屠っていく。
対して俺は、隠蔽スキルで姿を晦まし、セイクリッドソードを発動させようとする――が、それはただ綺麗に光るだけで、なにも起こらなかった。
(……っ!?どういうことだ……)
光が眼に映ったのか、一体のゴブリンが姿を消しているはずの俺に向かってくる。
(まずい……。このままでは、スキルを発動させた反動で硬直したままでは……!)
スキルが失敗に終わり、さらに硬直で動けなくなった俺の体。まだ、スキルに体がついていけてないということかと、がっかりする。
しかし、向かって来ていたゴブリンの姿はなかった。どうやら、エルザが即座に反応してバーンで屠ってくれていたらしい。
「……。なにやっているのよ、そんなところで」
エルザは、俺のところが見えてるのだろうか?魔道士ならば、それも当然?
「お前は……見えているのか」
「当然よ。スキル、失敗したんだってね」
「ああ。足を引っ張ってしまい……すまない」
「先へ進みましょう」
気づけば、咲と猪野が残りを屠っていた。もう、陽が沈みそうだったが、それでも咲が早く早くと言うので、まあいいかと思って先を急ぐ。
――痛い目にあった。
勇者パーティーは、ボロボロになり王都へ帰還した。勇者パーティーの活躍を待ち望んで城門付近で待機していた住民たちは、その姿を見て暗い表情をしている。
(なんだよその眼……。やめてくれよ……。俺たちを、中傷させるような眼を……!)
帰還し、王宮の大広間に報告をした。
「僕たち勇者パーティーは――。残念ながら、ゴブリンキングを前にして、敗北致しました。敗因は、正確且つ、細かいこの世界の情報――そして、戦力不足ということだと、僕は思いました」
次いで、咲もまた、同意見ですと付け加えた。咲も――。エルザと俺を省くようなその言い方に、少し苛立つが、ここは我慢する。
「……ほう。ゴブリンキングを屠れなかったか……。今回の任務の最終段階は、ゴブリンキング討伐だったと、思うが?」
俺はクエスト貼り紙をズボンのポッケから手に持ってくる。見ると、たしかに真ん中にそう書いてあった。
「クエスト失敗……。たしかに、そうなるかと思います。ですが、この敗因は、先程言ったのと、もう一つあります」
「それは、なんだ?」
「勇者の一人である、坂野が……。スキル発動をできず、硬直し、足を引っ張ったことです」
俺は、固まった。ザワザワと、周りの護衛兵たちがうるさくしている。たしかに、ゴブリンソルジャーの戦闘のあと、群れゴブリンを前にしてスキルを発動させたが、失敗した。しかし、隠蔽スキルは発動できたのだ。
なにか、なにかに俺は……呪われているのではないか。そう思ったが、心当たりが全くない。
「しかもですね。彼は、姿を隠してまで、スキルの失敗を見られたくなかったみたいですよ……。ほんと、勇者としての自覚を持って欲しいです」
みんなの俺を見る目線が、ぶあっと厚くなる。この目線で見られたのは、中学の時にいじめられていた以来だった。
「勇者、坂野守。我は汝を、勇者として認めん。ここに、無能勇者という烙印を、貼らせてもらう!」
そして、瞬く間にこの噂は広まった。スキルを使えず、姿を消して他の勇者たちに任せっきりだった。こんなにも、噂がすぐに広まるとは思っていなかった。
これは、事実ではないと反論したかった。したかったが、証拠が無かった。エルザは助けてくれるだろうという、無謀の願いも、叶わずに。
俺の心を読んだのか、左横にいるエルザは、クスッと笑を零した。
「……。馬鹿ね。こんな簡単に、策にハマるなんて」
俺は、居場所を失った。もう、王宮にも、王都にも、この世界にも……。居たくなかった。俺が召喚された理由さえ、わからなかった……。
ちゃんと、ステータス・プレートも完璧だし、他の勇者とも互角に渡り合えるほどあったはずだ。
なのに、なんで……。なんで、こんなことに……。
事の発端となった、群れゴブリンとの戦闘前のことを思い出していた――。
大広間から、勢いよく、みんなに笑われながら出て行った俺は自室に戻り、泣き叫んだあと振り返っていたのだ。
たしか、俺の体になにか入って来る感覚があったような……。
俺には、その原因はわからない。だって先日、来たばっかだからだ。まさか、猪野やエルザが裏切るとは思わなかった。
とても、苦しかった。あの場に居ることが、できなくなるぐらいに。
その後、俺はなにも考えたくないと思い、静かに目を閉じる――。
次の日、勇者パーティーはまたも大広間に呼ばれた。ちなみに、勇者たちの住む部屋は、王宮内にあるためにすぐに大広間へ行くことができる。
ただ、その場には――。彼、坂野守の姿はなかった。
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