第二話 勇者パーティー
国王より、伝達が下った。勇者のうちの一人が脱出をはかったらしい。そこで、脱出しようとした勇者を捕らえて、民衆に晒してしまおうということらしい。
このことは国にとって不味いことだと俺は思ったのだが、国王はそれを調教の一つとして捉えているらしい。
そこで、俺たち三人の勇者はそれぞれこの大広間にまた集められた。
「その勇者の境遇について、君たちにも問おうと思ってな。どう思う?」
「俺は、処分した方がいいと思うぜ。勇者としての自覚がねぇんなら生きている価値などない」
「それは僕は反対ですね。彼女を徹底的に教育し、勇者としての自覚を持たせましょう。戦力の欠如は、私たちにとって大きな欠損となりえます」
咲は必要ないやつは即、切り捨てるタイプだが、猪野の方は使える価値のありそうなやつは今は使えないなら使えるように努力させるタイプということか。
どうせ次は俺に振られるんだから、なにか考えないと……。
「そうか。議論は決定した。猪野。貴様の意見を尊重しよう。よって、現在牢獄にて捕らえている彼女を連れて来よう。そこの兵士、彼女をこちらへ」
「はっ!」
壁際に立っていた線の細い兵士が急ぎ足で出て行った。てか、牢獄だと!?もう、捕らえていたのか……。
「なにか怪しいことがあれば、すぐに捕まえるからな。これを、念に入れておけ」
みんなが賛成する。この男、勇者を縛って独占しようとしているの……か?わからない。わからないが、勇者の行動を制限することで、国を救って貰おうという算段なのは理解できる。
「今日呼んだのは、この案件だけではない。君たちには、パーティーを組んでもらって近くに潜む魔物を討伐して来て欲しい」
この世界に来てからわずか二日目。まだあんまり理解できていないなに、いきなり討伐任務からはじまるらしい。
「ついに来たか!安静にしていろとしか言われてなかったから、楽しみにしてたぞ!」
咲は目をキラキラ輝かせて嬉しそうに言う。猪野も、「私の実力をお見せする時が来たようですね……ふふふ」と、不敵な笑みを浮かべていた。
パーティー。勇者四人で組めということなのはだいたい予想がつく。その捕まった女が、一体どんな実力があるのか……。見物だな。
「んんっ。ガハッ。離してよ!」
後ろの扉の方から声がしたので、振り返る。そこには、少しピンクかがった赤髪の髪を下ろしており、同じ日本にいるとは到底思えない美しさだった。
「この状況……。なんなの?」
国王を睨みつけるようにして、問う彼女だったが、国王は目を逸らしてなにも答えようとしない。
「では、この四人でパーティーを組むように」
俺は、この四人が少し不安だった。冷静沈着で戦略性に長けている猪野に対し、咲は猛る獣といった印象で、すぐにでも獲物を見ては喰らいつきそうだ。連れてこられた彼女は、まだなにも素性をしらないから言うことがない。
「期待、しているぞ」
俺たちは早速、扉を出てから国王からの依頼クエストを確認しながら話し合っていた。
「なぁ、猪野。このゴブリンってのはなんだ?」
「君は、そんなのも知らないで憧れていた……なんて言ったのかい?にわかにも程があります。ゴブリンというのは、所謂小鬼です。こういうファンタジー系では序盤の雑魚的として現れます」
やはり。次の咲の発言が、このパーティーの弱点であろうことは、まだ俺しかわからなかった……。
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とある草原。そこには、大自然が広がっている。中でも、ど真ん中に立っている超巨大な木は、観光地としても有名だ。
「なにも、いないな」
「ここには魔物はいないですから。あの木によって、魔物の侵入は防がれているのですよ」
咲と猪野を中心に話が進んでいくなか、彼女は、会話に参加せずただ地面を見下ろしながら歩いているだけだった。
「ねぇ、君。なんて名前は言うんだ?」
ビクッと一瞬肩を震わせたのが見えたが、彼女は気を取り直したのか答えてくれた。
「私の名前はエルザ・ヴァンディ。日本という国がどういうところか知らないわ。私の住んでいたところは、ミヤンマっていうクソ田舎だもの」
ずーんと再び気持ちが下がる彼女、エルザ。やっぱり、美しさからして日本ではなかった。しかも、地球外生命体であった。
「そうか。俺の名前は、坂野守。日本人だ。戦闘において個人情報の交換は必要だと、思うのだが……」
「気にすることないわ。私、あなたたちより強いから」
こうして、歩くこと数十分。ついに、ゴブリンの住処を発見した。そこは廃墟と化しており、現在は人の住んでいる気配はなかった。
「みんな、準備はいいか?作戦通りで行くぞ!」
咲が号令を発する。目の前にはたった一体のゴブリンがいる。一体と言えど、異世界からきて二日しか経ってない俺たちからすれば、強敵のそれだ。
「任せてください」
まず、片手剣を携えた猪野が前に出て、ゴブリンの頭目掛けて振り下ろす。そこで、ゴブリンが気づいて手持ちの小さいこんぼうで防いだ。
次に、錬成で俺がゴブリンの足元に尖った岩を出現させる。ゴブリンの足からは大量の血が迸った。
そして、最後にエルザが渾身の細剣による一撃をゴブリンにお見舞いした。
「……って、俺、やることないじゃん!」
そう言って咲はその場でうずくまってしまった。国王たちに心配させないよう、俺たちは次のターゲットを狙う。
ゴブリン族の中でも、かなり知性に溢れたゴブリン――ゴブリンソルジャーだ。
普通のこんぼうを装備しているゴブリンとは違い、戦士の剣のような美しい剣を装備している。
「アイツは手強い。ここは、冷静に……」
「でりゃあああ!」
人の話を最後まで聞かずに、咲は斧を構えて突っ走った。頭上へ思いっきり振り下ろすが……。その攻撃は当たらず、腹を剣で横殴りされた。
「くぅ……。この斬れ味、やばいな」
「今すぐ回復してください、エルザさん!」
「……わかった」
エルザはお得意の治癒魔法でなんとか咲の傷を癒すことに成功する。猪野は、片手剣でゴブリンソルジャーに対抗する。
何合も打ち合ったあと、ようやく決着が着く。ゴブリンソルジャーの首から血が迸る。断末魔と共に、ゴブリンソルジャーは後ろに倒れた。
「この調子なら、楽勝だな!次行くぞ、次!」
「まだ一番、活躍できていないやつが、偉そうに……」
エルザはなぜか不安があるようだったが、それを俺は無視して、咲の定めた次なる相手に向かって走った。
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