第16話 ―― え?
ジニックは子犬の姿となって走った。
鋼の籠の上を駆け、横たわるギガス・メイルの胸部に開いた操縦場の中へと入り隔壁を閉じた。
『へ、がめつさが仇となったなグルニャック』
ジニックの予想通り、グルニャック達の追撃は無かった。
『さてと』
人型に戻ったジニックは左右に設置された宝玉に手を置き、魔力を流す。
正面の
『水銀の流動値が低いな。増幅器も再接続が必要。まあこれから運搬しようってんなら、こうなってるわな』
立ち上げの作業をしながら
既に幹部達が集まっており、また錬金術師の男の指示を受けて、
『俺は袋の鼠ってか。ま、普通は冒険者がこいつを動かせるとは思わんわな』
ギガス・メイルの操作は繊細で難しい。
ある程度の錬金術の知識と技術が必要であり、普通に動かせるようになるだけでも、早くて三か月の訓練が必要となる。
そして何より貴族以外の所有は認められておらず、操縦者としての訓練を受ける場合も、王の許可が必要となる。
『最新式でも基本操作は殆ど同じ。戦闘時の操作に注意すりゃいける』
四年前、ジニックは闇市で衝動的に一機を買ったことがあった。
旧世代の中古品で装備品は無し。
しかし後日届けられた請求書を見た経理担当は、ジニックに怒鳴り込んで来た。
普段「もうジニック様ったら、仕方ないですね~」と甘い彼女が、それはもうブチ切れていた姿が脳裡を過る。
もう昔になった話だ。
『なあミレーヌ、無駄じゃなかっただろ?』
錬金術師であった彼女も白炎獣の迷宮で死んだ。
感傷的になったことに苦笑して、ジニックは宝玉に送る魔力量を増やした。
『さあ度肝を抜きやがれ』
ギガス・メイルが固定具を壊して立ち上がった。
『お?』
ギガス・メイルの動きが止まる。
計器を確認すると、動力系の圧が高まっているのが見えた。
『なるほど』
ジニックはギガス・メイルの出力を最低まで落とす。
立てないはずの機体は倒れず、しかし端の方にいた団員達の顔が赤く染まっていく。
『このデカブツを魔法だけで支えるのはきっついだろ。ほら楽にしてやる』
ジニックが一気に出力を上げた瞬間、風船が破裂したような音と共にギガス・メイルが動いた。
そのまま倉庫の壁を突き破って外へ出る。
茜色の空が見えた。
倒れることなく着地し、取り敢えず旧市街へと足を向けた。
だが。
『鉄髭の穴倉だ、そう簡単に出れる訳もないか』
向かって来る巨大な火球へ右拳を合わせ、粉砕する。
立ち並ぶ土の魔法兵を左腕に内蔵されていた風弾砲の連射で薙ぎ払う。
立ち込めた土煙が風に浚われた先に、二つの人影があった。
赤髪に茶色の瞳の女と、一人の少年。
『ペトラか』
鉄髭の娘であり、浅からぬ因縁を持つ相手。
「久しぶりジニック。死んだんだってね」
『ああ』
剣槍を持つ姿に隙は無い。
かなり強かったなと思い出す。
隣の黒髪の少年も杖を構え、戦意の滾った赤い瞳を向けて来る。
十代前後に見えるが、魔力の波動と立ち姿は並みの騎士と遜色がない。
『そいつはお前の弟子か?』
「そうね。でもあなたの子供でもあるわよ」
―― え?
* * *
ナオは閉じていた目を開けた。
「ジニックが捕まったわ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます