第15話 ジニック対グルニャック

「……使い魔にまで落ちたか。品性はともかく、貴様の気骨は買ってたのだがな」

『使い魔なんかと間違えるんじゃねえ。神器の担い手たる冥王麾下きかの冥騎士だ』


 閃光、そしてジニックのいた場所を穿った魔法攻撃。

 右へ逃げたジニックへ抜剣した団員達が迫る。


『へっ、頭の切り替えが早いこって。だがな、』


 ジニックの手刀が剣を弾き、回し蹴りが団員達を打ち倒した。


『俺様がA級冒険者って忘れてねえか?』

「勿論覚えている」


 頭上に影。

 グルニャックが掲げた戦斧が振り下ろさる。


『ちっ』


 ジニックが紙一重を測り横へ避けた瞬間、グルニャックが宙で体を捻り、戦斧の軌道を直角に変えた。

 

『クソッ』


 胴を薙ぎ払う、避け得なくなった刃。

 ジニックは右手で魔力弾を放ち、その反動に身を任せて体を回転。

 尻尾の三分の一を斬られるも、グルニャックの頭上の位置を取った。


『この野郎が!!』


 声と魔力を混合させた咆哮ほうこうの衝撃波。

 家屋程度の大きさの岩塊なら粉砕する一撃は、しかしグルニャックに届く前に霧散した。


 投擲とうてきされた短剣を避け、ギガス・メイルの影に隠れる。


『軟弱貴族の臆病者みたいに全身魔導具だらけにしやがって。だからテメエは嫌いなんだよ』

「ほざけ飼い犬。だが今のでわかった。貴様は『死睡の冥王』の騎士として、半端者だ」


―― 正解。


『はっ、何を言いやがる。この俺様を半端者だと? まだ全力を出してねえだけだぜ』


 グルニャックと団員達が近付いて来る。


「去年の冬、この地で魔王軍との戦いが最も激しかった頃。俺はナオ殿の祭礼鬼軍レギオンを見た。冥騎士達の戦いを見た」


 ジニックはグルニャックの言葉に耳を傾けながら、打開策を考える。


 正面からの戦闘では負ける。

 今のジニックの魔力量が1000なのに対し、生前に調べたグルニャックの魔力量は2300。

 更には、手に握る戦斧はおろか服や軽鎧、腕や腰に付けた宝飾品の全てが最高品質の魔道具である。


 実際、先程のジニックの咆哮が霧散する直前、グルニャックの腰ベルトの宝玉が力を発揮する気配があった。


「本性を現した魔族どもは怪物だった。そして勇者ラルフも、従者ナオも、真の姿となった冥騎士達も怪物だった。俺など到底及ばない、絶対的な強者達だった」

『そうめらえると照れるな。主様と俺達への賞賛に免じて、今なら見逃してやるがどうだ?』


 儀式を経て冥騎士となったアザラムやイゼーア達は、冥騎士としての体を失ったとしても、冥王ナオが存在する限り、時間を掛ければ復活する。


 だがジニックは儀式無しでナオの冥騎士となった。

 故に冥騎士として不完全であり、今あるこの体を失った瞬間に『ジニック・ジュノーク』という存在は消滅してしまう。


「不要だジニック。お前にはあの冥騎士達のような恐ろしさを、強さを感じない。俺でも十分に駆除が可能だ」

『そうかよ。俺様が真の力を解放すれば、テメエを殺すことなんざ訳もねえんだぞ』


「ならするがいい。俺も黒鹿剣角戦士団こくろくけんかくせんしだんの団長としての力を見せてやる」


 宝くじ並みの期待で放ったハッタリは不発。

 そもそもジニックは姿を現す積もりは無かったし、ある程度調べたらナオ達の元に帰る予定だった。


『……話合いで終わりたかったんだがな。後悔するぜ?』

「ほざけ雑霊。さあ、駆除の時間だ」

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