最後の答え
階段を上って来る足音が聞こえる。
部屋にいる明仁には、それが誰のものなのか分かっていた、吐き気がする程正確に。
時計を睨むとキッカリ六時を指していた。晩ごはんの時間だ。
「明ちゃーん?」
明仁は普段通り一度目は無視をする。
「明ちゃーん? そこにいるの?」
叫びそうになる衝動を必死で抑えながら、明仁はドアに足蹴りを食らわせて返事をする。
「晩ごはん、ここに置いとくわね。今日はトンカツよ」
階段を下りていく足音が小さくなっていく。母親が完全にいなくなってから、ドアを開け晩ごはんのトレイを部屋に持ち込む。トンカツはまだ湯気を上げていた。
回転椅子に座って、目を閉じたままクルクルと回ってみる。椅子が止まったところで目を開ける、こことは違う別の世界が広がっていると妄想しながら。
目を開けると、壁にピンで留められている数枚の写真が視界に入ってきた。
明仁がまだ小さかった頃の写真。両親と一緒に写っている。何処かのキャンプ場のようだ。明仁は父親に肩車されている。写真の中で皆楽しそうに笑っている。
最近は父親と全然会っていないことを思い出す。明仁は父親が大好きだった。自殺未遂を起こす前までは、学校のことをよく話していた。
その隣には、大勢の友だちと一緒の写真。サッカーに無理やり付き合わされた時の写真だった。明仁は両手に軍手をはめている。周と春彦がいる。それに、淳もいる。やはり皆楽しそうに笑っている。
病院へ謝りに来た淳のことを思い出す。淳は泣きながら明仁に謝罪していた。そんな淳の謝罪を明仁は拒絶した。
転校して来てクラスに馴染めずにいた淳を誘ったのは、確か明仁自身だったと彼は思い出す。しかし、京一が来てから淳も周も変わってしまった。
今までいくら考えても答えを出すことが出来なかった疑問が、明仁の頭の中に再び浮かび上がってくる。
明仁は椅子から転げるように滑り降りると、絨毯の上に大の字に寝転がた。そして、再び目を閉じた。
「明ちゃん、そんなところに寝転がるんじゃありません。風邪を引くわよ」
母親の声が聞こえて来る。
明仁は無意識のうちに歯をガチガチと食いしばっていた。流れ出た涙が一筋耳の中へジュワッと音を立てて入っていく。
彼は身体を起こすと袖で涙を拭った。
答えはとっくに出ていた。そして、それが今の明仁の出せる精一杯の答えだった。
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