動向
「うわーっ!! 今のはチートだろ!?」
「違うッスよー!! 今のはテクッスよー!!」
大きなスクリーンの前に胡坐をかいて森本と洋介はビデオゲームをして遊んでいる。その後ろのソファーでは、京一が週刊誌を興味なさそうにパラパラとめくっていた。
京一は退屈していた。彼らは時折出かけて金を巻き上げては無駄に使い果す。完全に人生の空費、無駄使いだった。
森本の方へ視線を向けると、彼は野々村の頭をグリグリと小突いている。
そのとき、森本の携帯が鳴った。
「もしもし、郁生くん? うん……分かった、じゃああとでねー」
携帯を切った後の森本の表情は先程とは少し違っていた。
「……今日はもう、おまえら帰れ」
「えー! 今の郁生さんッスよねー? 何かやるんでしょー? オレも入れてくださいよー!」
ひとり騒がしく喚いている洋介を無視して、森本は玄関まで来るとドアを開けて出て行くように手で合図した。
洋介は文句を言いいながら渋々出て行く。京一がそのあと出て行こうとすると、森本は彼の耳元で何かを囁いた。
「あー、つまんねーな。郁生さん来るんなら『ハンティング』にオレも入れてくれればいいのにー。それにもうちょっとゲームしたかっかなぁ……ってか、寒みーし」
外は既に薄暗くなっていた。僅かだが粉雪が降ってきていた。
洋介は頭の後ろで手を組みながら、気だるそうに京一の少し前を歩いている。二人とも途中まで帰り道が一緒だった。
「おい? おめー、聖也さんに気に入られてるからって、あんまり調子に乗んなよな」
洋介は前を向いたまま歩きながら、後ろを歩いている京一へ文句を飛ばす。京一には聞こえていないのか、反応がない。
「……だいたい、オレはおめーのこと、初めから気に入らなかったんだよ。おい? 聞いてんのかよ、調子乗ってるとぶっ殺すぞ」
洋介が、返事をしない京一の方を振り向こうとした瞬間、前方からよく知った声に名前を呼ばれた。
「洋ちゃんじゃん! 何してんのこんなところで?」
赤い野球帽を被った少年が洋介の方へ駆け寄って来る。
「おう、拓哉じゃん。クラブの帰りか?」
洋介は拓哉の肩に掛けているバットとスポーツバッグを見遣る。
「ああ、洋ちゃんは?」
「オレは、こいつをこれからちょっと『教育』してやろうかと思っていたところ」
洋介はそう言って親指で自分の後ろを指した。
「は? キョウイク? ってか誰に?」
「あん?」
洋介が後ろを振り返ると、そこに京一の姿はなく粉雪だけが舞っていた。
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