二瑠とりょう

 少年の頭の包帯は殆どすっかり取れて髪もきちんと整髪されている。


 規則正しい音を立てている生命維持装置が、今ではなんだかとてもよく似合っていた。


 午後五時、二瑠は眠ったままの親友の傍らに座っていた。簡易テーブルの上には、クラスの皆からの寄せ書きと千羽鶴、それに手作りのクリスマスカードが置いてあった。


 時間が経つのは早い。仁栄だけを残して、一年で最後の月がもうやってきてしまった。あと三ヶ月もすれば、学年が変わってしまう。


 二瑠は眠っている親友の方に顔を近づけると、聞き取れない程小さな声で何かを呟くと、彼の手を両手で優しくそっと握りしめた。


 そして祈るような姿勢で目を閉じると、しばらくの間そのままでいた。


「あれ? 相川くんも来てたんだ?」


 振り向くとりょうが病室の入り口で立っていた。


「あ、佐々木さん……」


 二瑠はなんとなく目を逸らす。これまでにも彼は何度かりょうと病室で顔を合わしたことがあった。しかし、お互い言葉を交わすことはなく、いつも短い挨拶を交わすだけだった。


 二瑠は素早く立ち上がって床に置いていたバッグを手に取った。


「もう帰るの?」


「……うん」


「お父さんがもう少ししたら迎えに来てくれるから、相川くんも一緒に帰る?」


 初めてのことだった。二瑠はとても嬉しかったが、口から出た言葉はまたしても嘘だった。


「……いや、家はすぐ近くだから大丈夫……」


「そうなんだ……」


 少し寂しそうにりょうは俯いた。彼女に短く別れを告げると、二瑠は足早に病室を出ようとする。


「あ、相川くん?」


「え? 何?」


 身体半分が病室の外に出ていた二瑠は、呼び止められて首だけ向ける。


「明日は、学校来るよね?」


「え? ……あ、うん」


「そう。それじゃあ、また明日ね」


 りょうは小さく手を振る。笑っている彼女の瞳は寂しそうに潤んでいた。


「うん、また明日」


 彼も手を肩のところまで挙げて笑顔を作る。


 外へ出ると、二瑠はアスファルトの地面が濡れていることに気がついた。


 彼は自転車に跨り、粉雪が深々と降る空の下転ばないように慎重にペダルを漕ぎ始める、眠ったままの親友の姿と、寂し気に潤んだりょうの瞳を心に刻んだまま。


 粉雪の舞う空はどんよりと薄暗かった。まるで自分自身の心の中身を見せられているようだと、二瑠はひとり苦笑した。

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