明仁と周
二学期が始まって一ヶ月ほどが経ったある日、明仁は教室の自分の席に座っていた。
クラスの皆は明仁の置かれている状況を知っているため、彼に対してとても優しかった。しかし、その優しさはどことなく
明仁は、もう昔のようには戻れないだろうと確信していた。
ふと、彼は昔のクラス、彼がいじめられていたときの、クラスの様子を思い出そうとした。そして心の中で苦笑した。
「おはよう明仁!」
周は毎日、笑顔で明仁に挨拶してくる。しかし、彼が無理をしていることは誰の目にも明らかだった。
「……」
明仁はそんな周を毎日、無視していた。彼は卑屈になっていた。しかし彼は、自分には卑屈になってもいいそれだけの理由があると信じていた。
明仁はぼんやりと黒板を見遣る。本日の日直の名前の上には、日付が書かれているが、今日は水曜日だった。
明仁は月曜日から登校しているが、今日までずっと京一は学校へ来ていない。そのことを周に聞いてみようと思ったが、自分から話しかけるのも癪なので黙っていた。
すると、その日の給食時間、女子たちが京一のことを話しているのが聞こえてきた。
「神辺くん、ここんとこ、よく休むよね。やっぱまだ足痛いのかな?」
「うん、でもこの前、四組の子が、あっ、その子は塾で一緒なんだけど、神辺くんらしい子が、大学生くらいの人たちと一緒に街歩いているの見たって」
「えー! 何それどーゆーこと?」
「よく分かんないけど、一緒にいた一人がなんかガラが悪くて、やばそうな感じがしたって! あと、神辺くんの他にも小学生くらいの子も一緒にいたって!」
「えー! なんかやばいことしてんじゃないのー!」
「かもねー。ねぇねぇ、ところでさ、このプリン今日一個余ってるんじゃない? 神辺くんの分」
「うん、あっ! でも早くしないと、誰かに取られちゃうよー」
「あっ! 『バンザイ前田』がプリンのところに向かってるぅー!? あいつ、昨日も神辺くんの分のアーモンドフィッシュ食べてたしー! マジありえないわー!」
そう言う同時に、女子のひとりが素早く席を立つと、駆け出した。
教壇の前では、小太りの男子がプリンを誇らしげに両手で掲げ、「プリンゲットー!! バンザーイ! バンザーイ!」と喜びの咆哮を上げていた。
「ちょっと、待った―!! そのバンザイ待った―!」
そこへ先程の女子が割り込んで行き、小太りの男子からプリンを奪取しようと必死に説得する。
その様子を明仁は遠くから冷めた目で眺めていた。しかし、頭の中では別のことを考えていた。
「明仁、オレのプリン食べるか?」
顔を上げると、そこには笑顔の周がプリンを持って待っていた。
「え?……い、いらないよ」
「そ、そうか……」
周の表情が寂しげに曇る。
明仁は気にする素振りを全く見せず、牛乳をゴクゴクと飲み干すと、大好物のビビンバに取り掛かかり、ゆっくりと咀嚼する。しかし、彼の頭の中は京一のことで一杯で、ビビンバお味は全くしていなかった。
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