補導

 大学病院を後にしたりょうは、ひとりぼんやりと繁華街をうろついていた。


 お見舞いの後、本当はすぐに帰るつもりだったが、急にひとりで街を少し歩いてみたくなったのだ。


 ふと先日の咲子とのことが思い出された。咲子に対して取った態度を悔やみながら、りょうはとぼとぼと歩く。


「ちょっとキミ?」


 そのとき、りょうは背後から声をかけられた。振り向くと、制服を着た若い警官が立っていた。


「何処の小学校だい? こんな時間に、こんな所で何をやってるんだい?」


「あ……あ、青葉小学校です。今日は大学病院へ、友だちのお見舞いに……」 


 驚きながらも、りょうは比較的落ち着いた声で質問に答えた。


「学校は休みなの?」


「いえ、その……調子が悪かったので休みました……」


「……ふぅ。休んだのなら、ちゃんと家でおとなしくしてなきゃダメじゃない。お家は何処だい? お父さん、お母さんはこのこと知っているの? 兎に角、交番まで一緒に来なさい」


 警官は、りょうに付いてくるように手で合図をすると、すぐに背を向けて歩き出した。


 りょうと警官から五十メートル程離れた電信柱の影から、森本は息を潜めてその様子を伺っていた。彼はカフェ・テラスからずっと少女の後をつけてきていたのだ。


 そして、りょうに声をかけようと距離を詰めはじめた途端に、警官が横から入ってきて少女に声をかけたため、慌てて電信柱の後ろに隠れたのだった。


「青葉小学校……って、京一と同じじゃんか。オウ・マイ・ドリーム・カム・トゥル~……ってか?」


 森本は持ってきたコーラを飲み干すと、カップを握りつぶして道端に放り捨てた。そして車を留めている病院の駐車場へと急いだ。

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