悪夢
気がつくと、明仁は何処かの駅のホームにひとりで突っ立っていた。
辺り一面深い霧に包まれていて、周りは全くと言っていいほど見えなかった。
何処か遠くから汽笛の音が聞こえている。その音が段々と大きくなってくると、深い霧の中から汽車が姿を現した。
ホームに入って来た汽車は徐々にスピードを落とし、やがて明仁の前で停まった。
目の前の扉が自動的に開くと、明仁は躊躇することなく乗り込んだ。車内に人影はない。明仁は入り口近くの席に腰を下ろす。荷物は何もなかったが、そんなことは気にならなかった。これで遠くへ行ける、そう思うと、彼は嬉しくてたまらなかった。
扉が閉まると、汽車はゆっくりと動き出す。
明仁が窓の外を見ると、いつの間にか夜になっていて、霧は消えて無数の星が輝いていた。
「久しぶりだな、明仁くん?」
明仁は予期せぬ声に恐怖した。ゆっくりと声にした方を向くと、明仁の向かいの席に眼鏡をかけた少年が座っていた。
「……あ、な、何で? し、しん……」
彼の声が吃り始める。
「何処にも逃げられねぇよ。明仁よぉ?」
京一の右腕がふわっと目の前で持ち上がる。
「うわっ!!」
大袈裟に両手で明仁は顔をガードした。京一を前にすると、彼の身体は勝手に過剰反応を取ってしまうのだ。
「何やってんだ? 殴られると思ったのか? うひゃひゃひゃっ!!」
京一の笑い声は徐々に大きくなっていき、そして目覚まし時計の音へと変わった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
明仁はベッドから身体を起こすと、慌てて目覚まし時計を止めた。デジタル時計は六時四十分を指している。
彼は汗でぐっしょりと濡れたパジャマを脱ぐと、白いボタンシャツの袖に腕を通した。
明仁は、もう一度デジタル時計を見た。日付は十月八日を指していた。
一ヶ月以上、学校を休んでいたことになる。
机の上の鏡を覗き込むと、飛び降りた時に出来た傷は、思ったよりも目立たなくなっていた。
「明ちゃーん! 時間よー!」
階下から母親の呼ぶ声がする。
「わかーってるよぉ!! うるせーなー!! ……ばばあは、黙ってろよ……」
明仁は舌打をしながら、引き出しを開けた。そして、青いハンカチに包まれたものをそっと持ち上げると、ランドセルの奥に仕舞い込んだ。
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