亀裂

 給食の時間、りょうは咲子と机を向かい合わせにして、給食の焼きそばを食べていた。


 青葉小学校では、給食の焼きそばは、子供たちに大人気だった。


「やっぱり学校の焼きそばは、美味しいよね!」


 咲子は焼きそばを挟み込んだパンをおいしそうに頬張っている。


「……うん」


 明るく元気ないつもの咲子に対して、りょうはあまりにも反応を示さないでいた。


「それにしても、相川くんどうしたんだろうね。最近よく休むけど……」


 咲子は二つの空席に目を遣る。皆で仁栄のお見舞いに行ったあの日から、二瑠は時々学校を休んでいた。


「……そうだね」


「なんか、給食もふたりだけだと、すごく静かだね」


「……うん」


 短い相槌を何度か返し、機械的に焼きそばを口に運ぶだけのりょうの瞳に、精気は見られない。そんなりょうを、咲子は悲しげに見ている。


 しかし、りょうにはどうしていいのか、自分でも分からなかった。授業には集中できなくなり、給食の味もしなくなっていった。


 友達の声は遠くなり、まるでりょうの周辺だけ酸素が薄くなったかのように、息苦しささえ覚えていた。


「ねえねえ、りょうちゃん? 今日の帰りにさ……」


 ホームルームの後、咲子は教科書をランドセルに積み込みながら、りょうに声をかけた。


「……ごめんサキ、今日ちょっと寄るところあるから、ひとりで帰るね」


 りょうの言葉が、冷たく拒絶するかのように咲子の言葉に被さった。


「え? あ、いいよ。私も一緒に行くよ」


 咲子は、毎日りょうに話しかけて来た。そして、いつも変わらない笑顔を見せ続けていた。


 しかし、今のりょうには、その笑顔にどう答えていいのか、分からなかった。また、その笑顔に理由もなく苛立つこともあった。それは、咲子と友だちになって以来、初めてのことだった。


「ごめん……ひとりで大丈夫だから」


 りょうはランドセルを素早く肩に背負うと、足早に教室を出て行く。


「あ、うん、分かった。また明日ね……」


 咲子の声は、周囲の話し声に飲み込まれ、りょうの耳に届くことはなかった。

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