コーラの缶

「ちくしょう……」


 周には、そう簡単にはうまくいかないことくらいは分かっていた。それでも、彼の口癖は止まらなかった。


「ちくしょう……」


 学校の帰り道、明仁との面会を明仁自身に拒まれた周は、ひとり家路に着いていた。


 下を向いて歩いていると、道の真ん中辺りに置かれたコーラの缶が彼の視界に入った。


 周は、怒りに任せて効き足を後ろに引いた。


「ちくしょう!」


 爪先が空き缶のど真ん中を捕らえた瞬間、空き缶とは思えない重量感を周は感じた。


 その空き缶とは思えないコーラの缶は、風を切ってぐんぐんと飛距離を稼ぎ、三十メートル程先を歩いていた、少年の後頭部を直撃した。


「うぎゃぁぁああ~!! あでぇぇええ!! あ、頭がぁぁぁぁああ!!」


 少年は、頭を押さえて呻きながら、その場にしゃがみ込んた。


「やべっ!」


 周は急いで少年の元へ駆け寄った。


「大丈夫ですか? すいません! 今の空き缶蹴ったの、僕なんです……あっ!」


「馬鹿野郎!! ぜってー空き缶じゃねーだろ、この痛みぃー!! ……ん? あっ!!」


 振り返った少年と周は、お互いに顔を見合わせた。


「あ、春彦?」


「ハンナぁぁぁあああ!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る