新しい居場所

 大学ノートの切れ端に汚い字で書き殴られた住所。新築のマンションに部屋番号。


 京一は入口のカメラ付きインターホンに、紙に書かれた部屋番号を入力した。


「はい、どちら様ですか? あ、どうぞ」


 カメラで京一の顔を確認したらしく、入口のロックはすぐに解除された。


 エレベーターを使用して京一が玄関までいくと、玄関のドアが突然開いた。そして、実年齢よりも若く見える童顔がひょっこりと顔を出した。


「いらっしゃい。よく来たね」


 森本は京一に中へ入るように手招きする。


「お邪魔します」


 部屋に入ると、先客がいた。


 京一と同じくらいの年の坊主頭の少年がビデオゲームをやっていた。


「あ、こいつ洋介。五年生だから、京一くんのひとつ下かな。まあ、その辺に腰掛けててよ。何か飲み物取ってくるよ」


 洋介と呼ばれた少年は、京一に見向きもせずゲームに熱中していた。


 スクリーンには、次々と血を噴き出しながら撃ち殺されていく兵士達の姿が映されていた。銃声やら爆発音やら悲鳴やらが、スクリーンの横に設置されているスピーカーから大音量でに聴こえてくる。


 京一は部屋の真ん中に置いてある黄色いソファーに腰を下ろすと、部屋全体を素早く観察しはじめた。


 真新しい四人掛けソファーにパソコンデスク、チェアー、そして新型のデスクトップ、ダブルベッドと大型冷蔵庫、電子レンジに大型スクリーンなど、一人暮らしの必須アイテムが全て揃っていた。


 しかもそのどれも高価なブランドものばかりで、森本はお金に余裕があるのが、京一にもすぐに分かった。


「コーラでいいかな?」


 森本はコーラの缶を京一の方に放った。


「どうも、頂きます」


 片手でキャッチすると、京一は軽く頭を下げてから、プルタブを起こした。


「あれ? 京一くんって額に傷があったんだね。カッコイイーじゃん! どうしたの? 交通事故の時の?」


 森本はベッドに腰掛けると、缶ビールを美味そうに啜っている。


 ベッドの背後の壁には、幼い顔をした女性グループのポスターが貼ってあったが、家にテレビもなく、雑誌も見ない京一には、それが誰なのか見当も付かなかった。


「ええ、まあ……」


 京一は言葉を濁す。


「あ、そうだ! おい、洋介! 京一くん、大型トラックに撥ねられたんだぜ! 超クールじゃね?」


「セーヤさん、オレの友達なんか、石ころでガキ殺してますからね! 大型トラックなんかじゃあ、ビビんないっスよ!」


 洋介は顔をスクリーンに向けたままそう答えた。


「あ、そう。ってか、おまえもガキだろう。ビデオゲームやり過ぎなんだよ! ……京一くん、気にしないでね。こいつ、いつもこんなんだから」


「そんなことないっすよ! マジっスよ!」


「はいはい」


 森本は京一に肩を竦めて見せる。京一は苦笑する。


 ゲームに熱中していた洋介が、ちらりと京一に一瞥をくれてから口を開いた。


「セーヤさん。ゲームも飽きてきたんで、外行って遊びません?」


「え? まあ、待てよ。京一くんは、今来たばっかだろ。なあ?」


「僕は、別にかまいませんよ」


「お? マジで? じゃあ、ちょいとドライブでも行きますか?」


 森本は壁に掛けてある車のキーを手に取ると、指でクルクルと回した。

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