孤立
二学期が始まり、京一が松葉杖で登校し始めた頃には、クラスの雰囲気はすっかり変わってしまっていた。
教室に淳と明仁の姿はなく、京一と話するものもいなかった。京一もまた、誰とも話そうとしなかった。誰も何も言わないその空気が、全てを知っていることを意味してるようだった。
「京一、ちょっといいか?」
六時間目が終わった後、淳が学級文庫に置いていった「三銃士」を自分の席で読んでいた京一は、周の声に顔を上げた。
今日初めて先生以外の人に話しかけられたのだ。いや、学校へ戻ってきてから、初めてのことだったかもしれない。
京一が何も言わずにいると、周の方から話し始めた。
「……明仁のことだけど、今日学校終わった後、一緒に家に寄って見ないか?」
「あ? 脳みそ腐ってんじゃねーの? 仲直りしてーんなら、おめーひとりで行きゃいーだろ? オレは……」
「……そうか」
周は京一の台詞に短い返事を被せると、あっさりと自分の席へと戻って行った。
「……」
京一はそんな周を、何も言わず無表情で見送った。ふと京一は思い出した、自分が入院している間、周が一度も会いに来なかったことを。
ホームルームが始まったらしく、先生の話が遠くで聴こえて来た。
クラスの皆がざわざわと教室を出て行った後も、京一はひとり席に残っていた。
机の上には先程からずっと同じページが開かれたままの「三銃士」が置かれていた。京一は文字を追うのを止めて席を立った。
「一匹になった手負いの荒熊は、これから一体、何処へ行くのでしょう……」
松葉杖を突きながら、京一はゆっくりと教室を後にした。
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