家族

 病室の自分のベッドに戻ると、京一はすぐにカーテンを閉めた。閉めた後で、その必要はなかったことに気がついた。


 六人部屋の京一の病室は初めこそ満室だったが、徐々に減っていき、昨日二人退院してからは、京一と、隣のベッドにいる、膝にパイプを通す手術をした大学生だけとなっていた。


 隣のカーテンはいつも半分閉まっているので、京一側はカーテンを閉める必要は全くなかった。


 そして今、その隣からは静かな寝息が聞こえていた。


 閉めてしまったカーテンは放っておいて、京一は昼前に売店で買ったおいた焼肉弁当を袋から取り出すと、簡易テーブルの上に置いた。


 嫌いな沢庵をゴミ箱へ投げ捨て、焼肉と白飯を割り箸で均等に挟み器用に口へと運ぶ。頬の筋肉が硬く緊張するのを感じながら、顔一杯に笑みを広がっていく。


 弁当は既に冷たくなっていたが、空腹という最高のスパイスがそんなことを忘れさせてくれた。


「焼肉とは豪勢だな」


 突然カーテンが開くと、低い声が響いてきた。


「……親父、仕事もう終わったのかよ?」


 京一は入り口を塞いでいる熊にように大きな男の方に目を向ける。


「着替えとお金、ここに置いとくぞ」


「ああ」


「また来る」


 そう言うと、大男は病室を出て行った。


 京一が焼肉弁当を食べ始めてから五分も経たたないうちの出来事だった。


 再び弁当に視線を戻し、割り箸を滑りやすいマカロニサラダに突き刺そうと格闘していると、隣のカーテンが開く音がした。


「ねえねえ、今のお父さん?」


 京一がカーテンを開けると、隣の大学生が顔を覗かしていた。


「あっ、すいません。起こしちゃいましたか?」


「いや全然。でもでかいねー。二メートルはあるんじゃない」


「そんなにありませんよ。安全靴履いてたから高く見えたんでしょう。実際は百九十センチないくらいです」


「うわーっ! それでも十分でかいよー! あっ、今更だけどオレの名前、森本聖也(もりもとせいや)。すセントラルパークのすぐ近くにある私大に通っている大学二年生。よろしくね!」


 大学生は無邪気な笑顔を浮かべながら、京一の方に軽く手を振った。

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