ホームルーム

 若林はいつもの明るい声で、ホームルームを始めた。出席を取り、今週の予定を説明する。


 いつもなら必ず誰かがおしゃべりを始めて、若林が大声で注意をする、そんな騒がしいはずの教室が今日は不気味なほど静かだった。こんなクラスを見るのは、若林はもちろん生徒の誰もが初めてのことだった。


「……深水はしばらく病院に入院することになった。詳しいことが分かったら、またみんなにも連絡する」


 ホームルームが終わる頃、最後に若林は短くそう言った。


「先生、深水くんをやった犯人は捕まったんですか?」


 誰かがポツンと言った。


「……いや、まだ分かっては、いないようだ」


 険しい表情のまま、若林は俯いた。


「ったく! 誰がやったんだよ!」


「噂では隣町の学校のやつがやったらしいぜ」


「まじでー?」


「あーみたみた、バス止まってたー」


「深水くん、かわいそう過ぎるよー」


「でも、何でー!!」


 教室内が少しずつざわめいていく。いつもならすぐに注意をする若林だが、クラスメイトを心配してのことだからなのか、今日は注意をしない。


「……みんなの気持ちはよく分かるが、今は深水が一日も早く元気になって、学校にまた来れるようになることを祈ろう……」


 若林は悲痛な表情で俯いた。


「先生! 深水くんに、みんなで寄せ書きを書くってのはどうでしょうか?」


 学級委員長の岡本が、手を挙げて提案する。


「おー! それいいねー!」


「ねーねー千羽鶴とか、どーかなー?」


「それ、きっといいよー!!」


「そうだな。それはとてもいい案だと思うぞ。深水もきっと喜んでくれるだろう」


 若林は手の甲で涙を拭い顔を上げた。


「先生泣いてるのー?」


「どうしてー?」


「深水くん、そんなに悪いのー?」


「何? 先生が泣いている? 目にゴミが入っただけだよ。さあ、授業を始めるぞ」


 若林は、みんなの深水を心配する優しさに感動していた。そして彼らの素直な優しさがとても嬉しかった。


 子供である彼らは、この国の未来を背負っていく大切な存在だ。彼らのことを信じ、愛し、六年間という僅かな時間だが、暖かく見守ってやることが、先生である自分の務めだと感じていた。


 しかし、今はただ深水の身に起きたことが悲しくて、悲しくて、震えが止まらない拳を、どうすることも出来ないでいた。

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