第22話 黒幕② 「あの子の為なら…」
すずしい。けど、どことなく暖かい。
母さん…。父さん…。
もっとゆっくりしていたい。でもそんなこと絶対にしてはいけないと本能が言っている。
「あ。」
体のあちこちが痛い。体が思うように動かない。でも動かなくてはいけない。
止まってはいけない。そんな気がする。よく見るともう夕方になりそうだ。
あ、そういえば迎えに来てくれるはずだったのだ。
ぞっと背中に寒気がする。
でも、後ろには誰もいない。
「行って来い。」
シュヴァルツからそんなことを言われる。
彼はそれは何のことかは言わなかった。
でも、僕は許可を得て少しほっとした。
意識が次第にはっきりしてくる。そこは大きな木の下だ。
少し開けていて、周りには…………、黒い靄が渦巻いている。…あんなにも綺麗な青い花畑が。……そう思うと次第に怒りがわいてくる。あいつらがこんなことをしたのか。
そして、彼らの奥には――――――――――――アリアさんがいた。
長い棒の先端につるし上げられている。
――――――――――怒りが沸点に達する。
シュヴァルツのおかげだろうか。僕らのあたりには靄は近づいてきていないが、
今にも手が伸びてきそうである。
『おい、キラとやら、奇能をつかわず、抵抗せずに降りてこい。そうしたら、
この娘をはなしてやらんこともないぞ。』
へらへらと奴らが笑う。
『だめよ、キラくん。こいつらの言うことを信じてはダメ。』
アリアさんが必死に言う。
だが、そんなこともう頭に入ってこない。
『…うるさい。』
『あ?なんだって?』
『うるさいって言ってんだよ!!』
その瞬間、…空気が割れた。もう自分を抑えられない。
奇能が暴走する。靄の中の気持ち悪いやつらや、事件を起こし騒がせていた偽のドラゴンは一瞬の間に気化したり、氷になったりといそがしい。
僕自身も伸縮自在の水を刃として、瞬間移動を繰り返しながら上級魔物を切り飛ばして、彼女のもとへ向かう。
途中、口の中で血の味がする。心臓が止まったような気分になる。肺が動かない。
でもそんなこと知るもんか。「彼女の為なら…」そう思うと、自分のことなんてどうでもよくなる。
いつのまにか全て終わっていた。その光景は、とても奇跡なんかで表せるようなものではなかった。天変地異だ。
その場にいた全員は、一人をのぞいて、誰もが息をのんでいた。
『おまたせ、アリアさん。怖かったでしょ。ごめんね。…僕も、もう無理だ。』
オーバーヒートした体が悲鳴を上げる。
『…ありがとう。え!?』
『…バカをしよって。我と戦ってあれだけ傷を負っていながらなんて無茶を。』
笑いながら倒れた彼の眼は、とても優しい青い色が光っていた。
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