第13話 必然の作戦と魔皇帝の娘

「チッ、ヴェルガでもダメだったのか。おい、貴様どうしてくれる?

お前の言う通りに部下を配置すると、全員帰ってこないではないか。お前は私の部下をなんだと思っている?クビにされたいのか?」


異様な圧力をかけながら、子供の形をしたモノを睨みつけるその男は、おそらく魔人の長であろう。しかし、子供のほうも負けじと満面の笑みをくずさない。


「でも、あなたはボクをクビにはできない。忘れたわけではないでしょう?

5年前もボクのおかげで魔魂軍を再構築できたことを。それからボクの選択が間違っていたことがありましたか?」


「うっ、確かにそうだがな、今回はどうだ?今回おまえは私の戦力を根こそぎ削っていっているだけではないか?このままでは戦力不足になってしまうぞ?」


「はい。それについては確かにこちらの非もあります。…あの老いぼれがまだあんなにやれるとは思っていなかった。………ですが、次で終わらせます。これで無理であればボクの首でもなんでもあげますが、これが成功しなければほぼ我々は終わりと考えていいでしょう。…それかあの少年に共存の話を持ちかけるかですね。乗ってくるとは思いませんが。」


男の顔はさらに険しくなる。


「やはりそこまで差し迫っているのか。……よし、今までの恩に免じて、お前にかけよう。どんな作戦だ?誰を出す?」


「それは、まことに言いにくいのですが…、その作戦ではルミエール様に出ていただかなければいけません。」


「は?それだけは禁止するといったはすだぞ?あの子は我らの希望の光であるのだから。」


「しかし、今賭けに出なければ、どちらにせよ人間側の奇能力者に侵略されて、彼女も殺されてしまうのではないでしょうか?いくら宝であっても…」


「話にならんな。そんな可能性のためにルミエールを危険にさらすわけにはいかん!」





その近くでこっそり話を聞いていた少女は、拳を握り締めた。父が帰ってくるなり、すぐ声をかけた。


「父様、父様。さっきの話を詳しく聞かせて。私も父様たちの力になりたい。

それに、母様のために何かしてあげたいの。」


「聞いていたのか。ルミエール、あれをまともに聞いてはいけないよ、どれだけ危険なことか。」


「でも昔から恩のある方なんでしょう?それにあの人の言葉には、かなり悩みに悩んだような雰囲気があった。きっと本当にそれが最善策なのでしょう。

それを私が実行できるなんて、とても光栄なことだわ。」


「…………本気なのか?もしかしたら、お前が命を失ってしまうかもしれないのだぞ?」


「そしたら、それが最後の親孝行だと思って。私は父様と母様に甘やかされて生きてきたの。二人のために死ねるのなら本望よ。…それに、兄様の敵も取りたい。」


「………………わかった。お前の実力が魔人の中でも抜きん出ていることは私も知っている。やってみろ。ただし失敗は許さんぞ!」


ルミエールの顔はパッと明るくなる。


「ありがとう。父様、大好きよ!!!」


「お前もいるんだろ、出てこい、ゲルマン。」


「はは、閣下にはかないませんね。でも、本当に良かった。」


さっきの少年がさらりと姿を現す。心なしか、少し涙ぐんでいるようにも見える。


「よし、さっきの話の詳しい説明をしろ。」


「はい!えっとですね、まずなんですが、ルミエール様には変装をしたのちこの少年、時道 奇等というんですが、同じ学校に通ってもらうことになります。」


「「えっ!?」」


「この少年は人間なのですが、時道家は魔人に少し面識があります。

それに強力なダブルアビリティ保持者で、将来協会のトップに立つのではないかとも言われています。」


「つまりその子を潰せばいいのね?」


「いや、確かにルミエール様はお強いですが、正面から戦って勝てるかどうか、正直、わかりません。あくまで可能性ですが。ですので、ルミエール様には、学園で彼に近づいてもらいます。彼は、かなりのお人良しです。そして、できれば、彼が弱いところを見せた時に、…殺してほしいです。そうすれば、協会側の戦力を大きくそいだ状態で、遺体を使って強力な力を手に入れてから、戦争に持ち込める可能性が高いです。


 でも、それが無理そうな場合であっても、策はまだあります。彼と交渉をするという手です。ボクはこちらの方が安全性と危険性が少なく、おすすめしますが、難しいと思います。

彼は、さっきも言ったように、かなりのお人よしです。そこで、共存もしくは不可侵協定のようなものを提案し、向こう側の首脳部である協会に通してもらえないかを検討します。これが成功すれば、我らはこれ以上の被害を出さずに、民の安全も保障できます。

 しかし、彼は父母を前皇帝と戦って亡くしており、妹を我らの汚点である五年前の暴走事件の時に亡くしています。祖父も最近ウェルガと刺し違えています。

 これらの点から、彼は魔人を嫌っている可能性が高い、むしろ嫌悪していないほうがおかしいです。……すいませんね。ボクの判断の悪さで、もうこの二つほどしか希望はありません。」


言い終えたゲルマンは、本当に申し訳なさそうにしていた。


「お前、本当にそこまで…。」


「いいのよ、私も頑張るから、それに、あなたはこれが最善だと考えてやってくれていたんでしょ。あなたは悪くないわ。……わかった。すぐに準備をするわ、明日から行きます。早く編入の手続きをしておいてね。」


「わかりました!!!ご理解ありがとうございます。」


(そいつは私たちを嫌っている可能性が高い、で、正面から戦っても勝利は確実ではない…ね。前者の方を選ぶのが妥当かしら?いずれにしても、やれるときがあれば殺すべきでしょうね。楽しみね。学校では手加減しなくてはいけなかったから。私のできる全ての手を使って攻めましょう。)







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