第10話 初めての任務
「ウヴーーン、ウヴーーーン」
あれから、疲れてしまってすぐ寝てから、不運にも奇等は警報で目を覚ました。
「うーん、なんだろう。朝っぱらから。」
不機嫌で寝ぼけながら、パジャマで部屋のドアを開けると、かなり急いで用意をして階段を上る人たちがいた。
「これ僕も行かなくちゃいけないのかなー。」
「あたりまえだろ、奇等もさっさと準備しろよ。」
横を見ると、珍しくまじめな顔でせかしてくる来斗がいた。
「わ、おどかさないでよ。来斗」
「いいからさっさと着替えろ、お前も1級になったんだから毎日こんなだぞ。」
「えー、それじゃ夜も安心して眠れないじゃないか。…わかったよ、すぐ着替えるからちょっと待ってくれる?」
「おう。1分も待てないぞ。」
そういって、超特急で服を着たとあと、来斗と階段を二段飛ばしで駆け上がった。
「はあ、はあ、お前なんで全然疲れてないんだよ。」
「そりゃこういう修行もじいちゃんのとこでしてたからね。」
そんなことを言いながら、僕らは会長室の扉を開けた。
「おせえぞ、新人、これで人が死んじまったらどうすんだ。」
第一声はあのカウンターのお兄さんだった。
「すいません。仕事もはじめてなもので」
「そういう問題ではないんだが、まあいい、会長。任務の要件は?」
「そうじゃな、今回の魔物の発生所は凜鳥地区じゃ、そこの新人君のもといた家のあたりじゃな。そこで魔物が大量発生しておる。君ら1級を集めなければならんほどにわな。」
「重大じゃないですか、被害状況は?」
「安心せい、あそこは危ないと思って監視していたから、被害は出ていない。ただ、現場のやつらでは力不足でな、もうほぼ持たんと連絡が来ている。」
「じゃあなんでこんなところで会議なんてしているんですか?すぐにいきましょうよ」
鬼気迫る状況なのにこんなところ話をしている理由が理解できなかった。
「そうあせるでないよ、キラくん。…でももうそろそろ行こうか、会長、出動許可を。」
昨日の貼り付けの人がそんなことを言った。あれ、名前聞いたっけ?あの魔法少女にも聞いていなかった気がする。
「うむ、わかった。
「はあ、言われなくともわかっていますよ。この人数であれするの結構疲れるんですけどね。はあ。」
いかにもやる気な下げに一人の青年が言った。そして次の瞬間、景色が変わった。
ここは、じいちゃんの家だ。懐かしい光景とは裏腹に、奥からどす黒いものが今にも飛び出しそうにうごめいている。
「うわあ、気持ちわる。」
「何を言ってる、こんなのまだマシだぞ。」
となりで来斗が震えながら言っている。
「おい、1級隊が来た!もう耐えなくていいぞ。」
「「「りょ、了解。」」」
いまにも倒れそうになりながら、その魔物を抑えていたのであろう人たちが
呪文の詠唱をやめた。
すると、途端に家から黒いモノたちが飛び出し、ドブのような臭いが流れてきた。
本当に多い。これだけの人数で足りるのだろうかと心配になった。
直後、「キン!」と耳鳴りがした。いきなり突風が吹いて、魔物が真っ二つに分かれた。その圧力で、家も少し崩れてしまう。
「おうおう、
「あなた程ではありませんよ。酔京さん。」
どうやらこれをやったのは閃さんという人のようだ。…おもしろい剣だな。今度手合せを頼もうか。それから貼り付けの人は酔京さんというらしい。…とても似合っている。
「オレも戦うか。」
そう呟くと、さっきのカウンターの人は、火を纏って魔物の中に突っ込んでいった。
「驚いただろ、これが1級の人たちだ。奇等もおいてかれないように頑張れよ。」
来斗もそういうと、みんなを追いかけて行った。
残されて僕は、
「僕がおいて行かれる?ふざけるなよ。僕がみんなを救うんだ。約束したんだ、先に
『これからは僕がみんなを守るよ』って。」
奇能を同時発動した。水で伸縮自在の剣を作り出し、体感速度を最小にして、全速力で魔物を切った。
切って、切って、切りまくった。
「ああ、ブチッ、お…らあ、ゴキッ」
切った破片は凍らせて再生できないようにした。途中で人型のようなものも出てきたが、気にしなかった。
先輩の方々が戦っていた獲物もすべて切った。自分の家を汚すものはひとかたもなく切り刻んだ。
その場にいた全員が息をのんだのがわかった。
「わあお、これは…。もの凄い新人が来てしまったみたいだね。」
酔京さんが一言発したが、それは奇等の耳には入らなかった。
「はあ、はあ、これでいいんだよね。先…。」
静かに僕はつぶやいて、奇能を使ってビルへ戻った。
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「もしもし、儂じゃ、そうか、やはり、魔物の反応が一瞬で消えたのは彼の力じゃったのだな。…………やれやれ、これほど強ければ彼をランキングに乗せないわけにはいけないのう。大会にも出てもらわなければならないだろう。…ああ、まだ彼は学生だというのにの。」
「お父さんどうかしたの?」
「ん?ああ、少し奇等くんのことでな。」
「いい加減その古臭い口調やめたほうがいいよ。…彼凄いよね。同年代とは思えないくらい落ち着いているし、…何か悲しい顔をしていたわ。」
「そうじゃな、花蓮には言っておらなかったがの、彼はあの年ですでに家族を全員亡くしておる。両親は幼いころに、妹は5年前に、お祖父さんは…昨日にな。」
「え、……だから昨日あんな顔をしていたのね。」
「そうじゃ、しかしな、彼は少し頑張りすぎている。礼儀作法もちゃんとしているし、日々亡くなった人たちのために自分を強くしようと鍛えている。
恐ろしいほどの精神力で今もそれを続けられてはいるが…、心境はきっと苦しいに違いない。だからな、花蓮、…奇等くんには優しくしてやっておくれよ。」
弱弱しく重正は言った。
「うん、私も彼には気があるし…。もっと彼のこと知りたいな…。あ、い、今のは忘れて、お父さん!」
花蓮は言ってから気づき、顔を真っ赤にしていった。
「はは、本音が声に出ておったぞ。いや、儂も奇等くんとなら安心できるの。
彼なら必ず花蓮を幸せにしてくれるじゃろうしのう。」
「もう、茶化さないでよ。あ、奇等くんが帰ってくる。それじゃ、
お父さんまたあとでね!」
「おう、たっぷりと楽しむのじゃぞー。」
そうして花蓮は彼が来るであろうバルコニーへ走って行った。
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