第9話 奇能協会日本支部本部ビルの隣人たち(後篇)

次が三人目となる、これが最後だ、そして一番過激だったのがこのひとだ。


「すいません。向かいの部屋に越してきた時道というものですが!」


「…………」


何分たっても扉が開く気配はない。


もう寝てしまっているのだろうか。起こしては失礼だし帰ろうかと思うと、


中から、


「血が、血が!」


と、か細い声が聞こえてきたので、絶対何かあったのだろうと思い。

ドアノブに手をかけた。


鍵はかかっていなかった。

奥に入ると、血濡れた床の奥に十字架に張り付けられた男の人が笑っていた。


「あー、君が越してきた新人くんかい?」


「はい、そうですが……、あの、何をしているんですか?」


「ん?見ての通りはりつけにされた人の気分になってみたくてね。何とか人に手伝ってもらってここまでしたんだが…、これは一人ではとけなくてね。

君、「奇等です。」

じゃあキラくん、これを解くのを手伝ってくれないかい?」


「はあ、わかりましたよ。さっきの『血が、血が!』ってなんだったんですか?」


「ああ、あれか、私はね、圧迫を感じると血を吹き出してしまう体質でね。

あのままだとさすがに出血多量で死んでしまうような気がしたのでね。

渾身の力を掘り出して訴えたのだよ。」


「はあ!?そんな体質なのに貼り付けなんてしてもらったんですか。死にたいんですか?自殺願望なんですか?」


「いやそんなに怒らないでよ。…思ってもみなよ、人間っていまじゃほとんど貼り付けなんてされずに生きるじゃない?でもキリストの考えを知るためにはこういう実体験もしてみる必要があると思ったんだよ。」


「なるほど、確かにそういう考え方も…、ないわ!実体験をして死んでしまったら、なんの生きる道しるべにもならないじゃないですか。そういう実験は軽い気持ちでするものではないと僕は思いますよ!」


「そうだねえ、これは議論の余地がありそうだ。よし、これでもう動けるよ。

ありがとう、助かったよ。」


「どういたしましてといいたいところですが、この部屋の惨状は見て見ぬふりはできません。…何か雑巾のようなものはありますか?」


「キッチンに布巾ならあるけれど…。」


「わかりました、この際布巾でもいいです。この血濡れた床をどうにかしましょう!」


そういって、僕らは30分ほど掃除をし、それから部屋をでていった。


僕は、彼が最後に「次は火あぶりも試してみようかな」と危険な一言を呟いたのを聞き逃せなかった。


この辺に消火器あったっけ、なかったら僕が是が非でも奇能を使って消火に徹しなければならない。


また厄介な人を見つけてしまったと、僕は心の中で嘆いた。

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