第6話 奇能協会で…


思ったより中は静かで、かなりおしゃれだった。

観葉植物が置いていたり、落ち着く洋楽が流れていた。

どうすればいいかよく分からなかったが、奥のカウンターで暇そうにしている人に話しかけてみることにした。


「あのー、すいません。ここは奇能協会であっていますか?」

 

職員さんらしき人は、後姿だけを見れば日本人に見えたのだが、眼だけ薄い朱色が混ざっていた。


「なんだ坊主、今日は試験の日じゃねえぞ。それにな、俺も漫画を読むという仕事がある。暇じゃないんだよ。」


「試験?えっと僕は人に来てくれと言われてきたんですが…。あ、これ見たら通してくれます?」


「なんだと、嘘じゃねえだろうなあ。……お前、時道のとこのやつか、

どうりでその眼…。チ、さっさと行けよ、会長は待たされるのが嫌いだからな。」


「ありがとうございます。それでは!」


いつものスマイルでお礼を言い、さっさとエレベーターに乗り込んだ。

「えっと、20階っと。」

このビルは22階まであるらしい、だいぶかかりそうだ、と思った瞬間

ガタ、とエレベーターが揺れた。

そしていきなりめちゃくちゃな速度で、上昇をはじめた。

 なにこれ、遊園地のアトラクションか?こんなの絶対酔うでしょ!そう心の中で叫びながら、必死に手すりにしがみついた。すると、30秒もかからないうちに扉があいて、ついたようだった。


「はあ、はあ。」

過呼吸なりながら、逃げるようにエレベーターから出た。


「えっと…会長室っと。」


案外会長室は簡単に見つかった。爺ちゃんに教え込まれた作法で、部屋に入る。


「コンコンコン、時道奇等です。天王寺重正さんに招待されてきました。」


「入れ、奇等くん。待っておったぞ。」


中からあの声が聞こえ、ドアを開けた。


すると、大きな机のまわりに、4人の人が座っていた。内装は思ったよりもかなり質素な部屋だった。


「ようこそ奇能協会へ、時道家18代当主 時道奇等くん。」


「へえ、この子が、そう、確かに零止の面影はあるわね。」


「眼はきれいな天色だね、和子さんと零止くんの色が混ざったのかな?」


「……………」


「お初にお目にかかります。時道奇等と申します。以前父母がお世話になりました。これからもご迷惑をおかけしますが、精いっぱい働かせていただきますので、どうぞこき使ってください。」


「なんと、零止の百倍、いや千倍礼儀ができておるではないか。しかしな、

安心せい、こきつかいもせんし、君だって、朝に季長さんを亡くして、今は頭がいっぱいなのではないかい?」


心配したように重正さんが言った。


「いえ、祖父のことはまだ吹っ切れてはいませんが、うじうじしてると祖父に申し訳ない気持ちになるので、自分の中で区切りはつけているつもりです。」


苦笑いで僕は言った。


「すごいね、もう家族全員居ないんでしょ。その若さでそんな顔をしているのは、

君ぐらいじゃないかい?」


「そうだわね、こんな若い子は普通そんな顔しないわよ。」


「いえいえそんな、僕なんて未熟ものですので。…それで、本日はどのようなご用件で?」


「そうだな、単刀直入に言うとな、君にはこの協会に入ってもらう。

ここなら、協会の目も届くし…。花蓮も君によく会えるからな。」


「ちょっと!お父さん!」


静かだったあの子は花蓮ちゃんと言うらしい。よく見るとかなりの美人だ。


「悪い悪い。…それに君の家も季長さんから頼まれているし、転校しなければならないからな。あの学校にはさすがにもういられないだろう。」


「そうですか…、わかりました。何から何まですみません。」


「君が謝ることはない。決まっていたことだ。」


「そうだわねえ。あんなに派手にやらかしたら、大問題になるんじゃないかなあ、

熊野のやつがいるとしても。まあ、とても面白かったけどね。」


「はは、あれは確かに傑作だったね。もっと見ていたかったよ。」


「ありがとうございます。…それで、これから僕はどうしたらいいんでしょう?」


「そうだな、まずは奇能力者登録をしようか、あれを通ってくれ。服なんかは脱がなくていいぞ。」


「わかりました。」


ちょっとしたトンネルみたいなものを通ると、一枚のカードのようなものがそばから出てきた。



【 時道 奇等 16歳 奇能協会日本支部本部所属            】

【 初期推定実力…1級Z~Aクラス(奇能同時発動…Qクラス)        】 

【 奇能…時空自在、水神                       】

【 伸び代…絶大  魔危険度…強                   】


「これは…、やはりあの二人の子か、これだと仕事に引っ張りだこになってしまうな」


「すごいね、初期で1級は初めて見たよ。すぐにランキングにも乗るんじゃない?」


「これは…。すごいわね。」


みんな驚いているが僕はよくわからない。


「あの、この1級とかってなんですか?」


「ん?見ての通り実力じゃよ。能力者は、強いほうから、1級、2級、3級、4級となっておってな、1級はQ,A,Zクラス、2級はW.S,Xクラス、3級はE,D,Cクラス、4級はR,F,Vクラスに分けられる。お主はだいぶ強いほうだということじゃ。季長さんのところで修業をした成果がよく出ておる。いったいなにをしたらこんなことになるのかわからんがの。」


「そうなんですか。これからは人を救えるようになったんですね!」


「そうじゃが、まだお主は学業を頑張ら無くてはならん。…君、全国模試は前回何位じゃった?」


「全国模試ですか、僕はですね、勉強にはかなり自信がありまして、二桁に乗ったことがありません。前回は頑張って1位をとれたんですよ!」


本当に自信があったので、自慢げに言った。


「ほんとかの、それじゃあ心配はいらないな、君には私立天王寺学園に転校してもらう。」


有名な名門校だ。もともと大阪にあり、移動したらしい。でも選考の仕方がかなり特殊なことぐらいしか僕は知らない。


「天王寺学園って名門じゃないですか。…お金僕持ってないんですけど。」


「はは、おじいさんが君のために残してくれた資産がたくさんあるし、

これは協会から出すから気にしなくてもいいよ。……それにその成績なら、特待生でいけるのじゃないかの。あそこは借金にはならないからね。」


「ほんとですか、ありがとうございます。」


「じゃあ、早速準備をするか。来たまえ、君の部屋に案内をしよう。」


「え、このビルに住まわせていただけるんですか?」


「なんじゃ、嫌かの?」


「とんでもない、とても嬉しいですよ。景色がきれいじゃないですか。」


「そういってもらえると嬉しいがの。さ、こっちじゃ。君の部屋はこの部屋の真下となっておる。19階は他の1級も多いからの。愉快な毎日になると思うぞ。」


また重正さんはニッと笑って見せた。


「そうですか、それはとても楽しみですね。」


僕も同じように笑いかけた。




部屋は、シンプルではあるものの、おしゃれで、高級感があった。白い壁と白い床はとても気に入った。


「それじゃあ儂は別の仕事に行くから、花蓮、二人で少し話していなさい。」


「「え!?」」


「たのしむのじゃぞー。」


こうして僕ら二人は残されてしまった。どうしよう、どんな話が好きなのかな。あ、最初は自己紹介からか。あー、もう気まずいな。

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