第5話 不運にも続く、少年の不幸

<午前5時>

『やはりそうでしたか、あのビルの惨状はやはり…』


「そうじゃ、だから先生、奇等を頼みますぞ。」


『ちょ、時道さん、頼むって?』


「正直な話、家の周りの結界を張るのが限界に近いのじゃ。儂の寿命も近いということじゃろう。もう奇等の顔が見れなくなるのは悲しいがの。」


『そんなこと言わないでください。時道さんならいくらでも協会から護衛隊を…』


「ここはとても魔物が出やすい場所でな、護衛など呼んだら迷惑がかかるじゃろうし、自分のことは自分が一番わかっておる。……それにな、最後ぐらい孫にはカッコ良いところを見せたいではないか。」


『そんなことないですよ、時道さんは奇等くんのために尽くしていたではないですか。修業も、彼のためだったのでしょう?』


「そうじゃがの、これ以上はあ奴自身が鍛えていかなくてはならぬ。

これからしてやれることは何もないわい。これが格好のいい引き、あ?…」


【なーにをやってるんだい?爺さんよ。結界が驚くほど弱くなってるぜ?】


『どうかしましたか、時道さん、時道さ』プチ、切れた。


「よう、のこのこと出てきおったな、魔人め。お前を呼び出すためにわざと緩めたのじゃ。まんまと引っかかりおって。形は人でも所詮魔物は魔物なのかの?」


【いい度胸してるじゃねえか爺さん。オレを殺す気かい?】


「あたりまえじゃろ、もうそろそろお前らがウザったくなってきたんでの。」


【へー、そうかい。負ける気なんてさらさらねえが。せいぜいオレを楽しませてくれよ?】


(まずい、奇等を狙っていたのは上級魔人じゃったのか、Zクラスはありそうじゃな。

まだ中級だと思っておったが、奇等の奇能が目覚めたのがきっかけで強いのが引き付けられたか。)


「そうじゃな、冥途の土産にお前の首を持っていくとするかの。

完璧にたたきつぶしてくれるわ!」


そうして時道家16代当主時道 季長と上級魔人ヴェルガとの何時間にも渡る死闘が始まった。



   







「ふぁあ、あ。」


かなり久しぶりに、よく眠れた。何年振りだろう。

時計を見ると、12時を過ぎている。

じいちゃんどこだろ。あ、もしかして朝ごはん作ってくれてんのかな。

台所に行くと…



「じいちゃ」


息をのんだ。台所がどす黒い液体と、真っ赤な血で染まっていた。かなりの戦闘があったらしく、あちこちがぼこぼこになっており、天井にもいくつか穴が開いていた。


絶対何かあったのだろう、僕は慌てて台所へ入ると、



奥で腹に穴があいたじいちゃんがいた。


「じいちゃん!しっかりして、何があったんだよ!どうして、どうして!」

 僕は半泣きになりながら話しかけた。


「泣くな泣くな、時道家の男子が泣いてはならん。零止譲りの男前が台無しではないか。」

じいちゃんは弱弱しく言った。


「見ての通り魔物と戦ったんじゃよ。どうせもうそろそろ死ぬとわかっておったからの。…相打ちじゃ。情けないのう、全盛期のころはあれぐらい十秒もあれば十分じゃったのによ。」


「そんなあ、僕は父さんも母さんも、先も失ったのに、じいちゃんも行ってしまうの?嫌だよう」


「ほんとにの、お前には可哀そうな思いをさせる。儂の力不足ですまんの。じゃがな、奇等。これからは幸せになるのじゃぞ。これからは、その力で守りたいものを守り抜くんじゃぞ。」


「ううう、うん。でもじいちゃん、じいちゃああああああああん。」


じいちゃんは、静かに息を引き取った。


 それからすぐ、奇能協会?の人が来て、じいちゃんを連れて行った。葬式か何かの話をされたけど、あんまり頭に入ってこなかった。親しい人が死ぬのを近くで見たのはこれが二回目だ、一回目は先だが、両親は物心がつかないうちに死んでしまったので、顔すら覚えていない。

 かなりショックだった。あの怒鳴り声も、褒められたときの大げさな声も、もう聴けなくなるのだと考えると目頭が熱くなった。でも脳内で、よく言われた『時道家の男子が泣いてはならん』という言葉が繰り返され、余計に泣きたくなってしまうが、

何とかこらえようとした。




昼食は、軽く野菜と肉を炒めてさっさと食べた。

献立を考える気にはなれなかったが、朝から何も食べていなかったので、

無理やり口につめこんだ。やはり一人の食事は、かなり寂しかった。



≪午後1時≫


あまり乗り気ではなかったが、昨日言われた通りの場所へ来た。

ビルのようだが、ほかの土地に比べて雰囲気が違っていた。

此処に入るのかと思うと少し気が引けたが、政治会のタワーに比べたら、

全然たいしたことはない、僕は自動ドアの前に立った。







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