第2話 奇跡の偶然
偶然とは何か。
生物の一生は数えきれないほどの偶然によって成り立っている。
健康に生まれるというところから、どの道を通って学校に行ったか、何時の電車に乗って帰宅したか、誰とすれ違ったというところまで。
この世界では、1000年ほど前から科学的にも説明できないような、奇跡ともいえる偶然が起こっていた。
人に超能力のようなものが宿るようになったのだ。ある意味人間の突然変異とも言えるだろう。人はそれを奇能と呼んだ。
これは、そんな物騒な力を手に入れた、人間たちの物語である。
≪5年前東京都江戸川区≫
「ゴゴゴゴゴ……ゴロロ、ドカン!!」
「なんという数の魔物だ、これだけの規模は前代未聞だろう。おまえ、ここは人払いしているんだよな。」
「はい、魔門が開き始めてすぐに堺部長が人払いをしていたはずです。しかしこれは……。今日は花蓮様の半成人の日であるというのに。」
「そうだな、あの方の神聖な日なのだから、こんな不吉なことがあってはならない。
さっさと終わらせてしまおう、と言いたいところだがこの数はさすがに無理だろう。
Qクラスの人間が必要だな。重正様は呼べるか?」
「え、重正様は花蓮様の儀式に出ているので無理なのでは…「儂はもう来ているぞ。」え!?失礼いたしました!」「重正様、お久しぶりでございます。」
「おう、龍也よ、久しいな。正子さんは元気にしておるか?」
「はい、おかげさまで母は長生きさせてもらっています。」
「そうか、よかった。…しかしなぁ、花蓮の式の日にこの規模の襲撃が来るとはなあ。儂もこれを察して急いできたが、ここまでとは。」(和子さんと零止がまだ生きておれば…)
「はい、人払いはしていますが、この数だと正直一般人が紛れ込んでいてもわかりません。大きな被害をこうむる可能性が高いと思います。」
「そうだな。よし、遠隔術使い、準備を始め「ああああああああ、さきいいいいい!」どうした、一般人か?保護を急げ「重正様、その少年のほうから氷が、彼の奇能でしょうか、あ。」
その場にいる全員が息をのんだ。たった1秒も満たない間に、少年から半径1kmほどの範囲がすべて凍ったのだ。魔物も人も車もすべて止まっている。少年が彼の抱えている少女に向かって泣く声だけが、その町に響いていた。
「あれは和子さんの…もしや彼は…お前たち、彼のところには近づくなよ。
儂が行く。ほかの者があそこへいけば氷づけにされてしまうだろうからな。」
「「「「わ、わかりました。」」」」
「まさかあの二人に子供がいたとわな。しかもあの少女は妹だろう、さぞかし苦しかっただろうに。」
そんなことを呟きながら、空をかけ、一瞬で氷に覆われた土地の中心部へ向かう男が一人いた。
時は現代に戻る
「ひもなしバンジージャンプって、思ってたより怖いんだな。…親不孝になっちゃうな。ごめん、じいちゃん。」
奇等はそう呟いた。
≪00:03:99≫、≪00:02:63≫、≪00:01:00≫、
「うっ」
終わりか、目を閉じた直後……
爆発は起こらなかった。そして奇等の体感では、『時が止まった』
奇等は幼いころから、目が良く、モノや人の動きがスローモーションに見えることがあった。今思えば、切羽詰まったときにそう見えたのだと思う。
しかしこれはその時の比ではなかった。本当に『時間が』『止まって』見えたのだ。
そして時間が止まった直後、もっと驚くことが起きた。
今自分が手に持っている時限爆弾が凍り付いたのだ。
一気に重くなった反動で思わず落としてしまったが、何故か『それは爆発しない』と直感でわかった。
自分が身軽になった気分になる。防弾チョッキを脱ぎ捨て、近くのビルに飛び乗ろうとすると、不思議なことに、空気中の水蒸気が凝縮されて、水の道ができた。
ビルの上についた途端、時間が動き出し水の道はなくなった。水の上を歩いたのに、奇等のスニーカーは全く濡れていなかった。
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